お前のじゃないからな
「へぇー、本当、よくできてるなぁ」
無遠慮な視線を隠そうともせず、ルードリヒは私をじろじろと眺めて感心する様に頷いた。
「しーぇーあーぃーぃー(死ねばいいのにー)」
こちらもこの男に遠慮する気はない。私は赤子の言葉が伝わらないのをいいことに正直な感想を齎す。
場所は変わって、応接間。コルキスは私をルードリヒに会せるために連れて来たらしい。赤ん坊はそろそろ就寝の時間なのだが、今日はまだ眠くないので良しとしよう。
「ははっ、何か言おうとしてるみたいだけどなんだろう?」
「さぁな」
「やっぱり最初に喋るのはパパーとかかなぁ。楽しみじゃないか、コルキス」
「心にもないことを言うのは止めろ。虫唾が走る」
人好きのする笑顔を張り付けたルードリヒの茶番に、コルキスは付き合う気はないらしかった。ぴしゃり、と言われたルードリヒはちっとも笑っていない目を細めて首を僅かに傾ける。
「一体なんの冗談かと思うじゃないか。君が娘を溺愛しているなんてさ」
「……」
「フリならフリでいいんだけど、どうもそうじゃない。なんだい君、思ったより上手くできて情でも沸いた?この子もかわいそうに。大切にされて甘やかされて育つんだろう?で、いずれ知るわけだ。自分が愛されてるわけじゃないってね!」
茶化すルードリヒの本意はまぁ、わからなくもない。実際のところ、コルキスが現状イザベルに対して父親面しているのは、この赤ん坊がロゼリアに何かしらの縁があるからだ。ルードリヒはその辺の事は知らないだろうから、コルキスが赤い髪に青い目の女性を妻に迎え、同じ色を持つ娘を得て、疑似家族ごっこをしている、というのを揶揄したいのだろう。
イザベル自身を慈しんでいるわけではないのに虚しいな、と笑いたいらしいこの男。
コルキスは私を膝に乗せたまま黙ってそれを聞いて、とくに反応はしなかった。
聞いている私としても、別段問題はない。
そもそも、公爵夫人とてイザベルを自分が失った子の代わりとして慈しんでくれているだけだし、アーサーも前々世の私に対しての罪悪感から妙に協力的になっただけだろう。
理由なく愛情が沸いてくるわけもなし、明確であればいいじゃないか、と思う。
(しかし、なんだ?ルードリヒのやつ。妙に突っかかるな。公爵夫人にちょっかいをかけてきたことといい……なんだ?公爵夫人や、その娘に対してコルキスが関心を持つのが気に入らないとでもいうのか??)
どういうわけでコルキスがルードリヒに仕えるようになったのか知らないが、妙な執着心のようなものが見え隠れしている。まるで『妻子と私どっちが大切なのよッ!』とでもいうように。
まぁ、どうでもいいが。
「あぅあー」
コルキスが黙っているのが不気味だ。見上げてみると無表情で何を考えているわからないが、ここでルードリヒの言葉に私への態度を変えられても困る。私が立派に成人するまで養育してほしい。
「ん?どうし、」
「ちーぅえ」
「……」
両手を伸ばして、愛らしく笑いかけてやる。そして更に、初の父上呼びだ。
狼のように鋭い金の瞳が驚いたように見開かれ、口が半開きのまま停止する。
「ちーぅえ、ちーぅえー!」
今だッ!畳み掛けよ!!敵は無防備である!!
私は父上と連呼し、きゃっきゃと笑い声をあげた。伸ばした手はギリギリのところでコルキスには届かず、硬直する男はその手を握り返していいものかと中途半端な位置で手を止めている。
「……」
コルキスはそのまま手を自分の顏に持って行き、両目を覆った。体が小刻みに震えている。
私はちらり、とルードリヒを見た。
「……は?」
信じられないものを見ているような狂王は、私の視線に気づき顔を向けてくる。
ふんっ。
知らん間に私の部下を傘下に収めた敵国の王に向かい、私は思いっきり鼻で笑い飛ばしてやった。




