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大賢者の贈り物


「まぁ、そのような面倒な話はどうでもいいとして。こちらをお持ちいたしました」


 私の婚約者の事か、それともコルキスとルードリヒの動向のことか、どちらにせよ大賢者アーサーにとってはどうでもいいのだろう。斬り捨てるように言って、アーサーはひょいっと、持参した木製の妙なものをルシアに見せる。


「こちらは?」

「あ!もしかしてイザベルおじょうさまのおもちゃ?」

「ほっほっほ、ソニア様は賢いですなぁ」


 よしよし、とアーサーはソニアの頭を撫でる。


「あーぅ!あー!(えっ、何々?貢ぎ物??)」


 別におもちゃで遊びたいお年頃ではないが、くれるものは貰いたい。ソニアと一緒にはしゃぐと、アーサーは『恥ずかしくありませんか、赤子のフリなどして』と心の中で冷たい突っ込みを入れてくる。私に塩対応じゃないか?なんで??こんなに愛くるしい赤子なのに。


 まぁ、それはいいとして。


 アーサーが持ってきた木製のブツは四角い枠のようなものが二段の作りになっていて、一段目には小さな車輪が四つ付いている。


「こちらを、ほれ、この通りに、イザベル様を設置しますと」


 設置とか言わないでほしい。


「上半身が支えられ、歩く練習ができます」

「まぁ!」

「おじいちゃんすごーい!!」


 ようは歩行器である。


 この世界では見なかったが、前世の日本ではハイハイができるようになった赤ん坊が歩くまでのタイミングで使用されるアイテムだった。


「あまり使用しすぎると下半身の筋力を鍛える妨げになりますが……好奇心旺盛なイザベル様でございますからな。あちこち移動できるようになるのはきっとお楽しみいただけるでしょう」

「きゃっきゃ~!(わぁい!わぁい!)」

「さすがは大賢者様、素晴らしい贈り物をありがとうございます」

「ありがとうおじいちゃん!よかったねイザベルおじょうさま!」


 ハイハイは完全にマスターしたが、まだ二足歩行はできぬ身である。私は素直に喜ぶ。


 元々アーサーは大賢者になる前は、魔力を使用せず平民でも使用できる便利な日常の道具の発明を専門としていた。代表的な発明品は汲み上げ式ポンプや印刷機である。


「あーぅあー(なるほど……北の塔から離れ、大賢者としての仕事がない今、ちょっとした日曜大工をしてきゃっきゃはしゃぎたい、ということか)」

「(違います。殿下と一緒にしないでください)」

「(わたしの三度目の人生は暇つぶしじゃないよ!!?)」


 突っ込みを入れつつ、私はアーサー作の歩行器を使用してみる。


 木製だが丁寧に作り込まれているのでデコボコとした振動はない。中々スムーズに前進できる。


「お上手でございまよ、イザベル様」

「イザベルおじょうさま~、こっちこっち~!」


 初見で華麗に使いこなす私をルシアとソニアがチヤホヤしてくれる。うんうん。褒められると伸びるぞ、私は。


「きゃ~ぅ!あー!!」

「っ!イザベル様!!あまり急いでは……」

「あぁ、心配ありませんよ、乳母殿」


 調子に乗って『盗んだバイクで走り出す~~!!』と歌いダッシュをキメる私に、ルシアが慌てる。しかし、アーサーは冷静だ。


 地面を蹴り!上がる速度!!風になるッ!ひゃっふー!!


 と、加速した私の体は、ガッ、と急ブレーキをかけられ、ふわり、と優しい見えない力に包まれストン、と止まる。


「……??」

「転倒防止のためと、一定の速度が出た場合に止まるように、風の魔術式を刻んであります」


 あくまで歩行練習のための道具だ、とアーサーは微笑む。くっ……子育てなんて遥か昔にしただけのくせに、なんというご配慮……。


 悔し気に呻き、私は仕方なくテクテクと静かに歩くしかない。


「……なんだ?それは」


 私がソニアに「お嬢さま~こっちこっち~」と誘導されながら、子供部屋を半周していると、晩餐会を終えたらしいコルキスが部屋に入ってきた。


 ルシアが出迎え、アーサーからの贈り物であることと用途を簡単に説明する。コルキスはアーサーに礼を述べ、私の方に近付いた。


「娘よ、疲れていないか。あまり無理はしないように」

「あーぅあー!(おぉ!コルキス!丁度良いところに!!ちょっとそこにおれ!)」


 近づいて来たコルキスに私はしっし、と手を払う。


「……気のせいか、娘に、邪魔だと追い払われているように見えるのだが」

「こうしゃくさま、じゃまなの?」


 違うよ!ソニア!無邪気に追い打ちかけないで!!?


 私はぶんぶんと首を振って、コルキスにそこにいるようにと頑張って伝える。


「……?なんだ?」


 伝わらない!アーサーは通訳をせずにこにこと眺めている。ルシアはコルキスがやってきたのでお茶の用意をするために引っ込んでいる。


 コルキスが困惑しながらその場を動けずにいるので、私は仕方がないから自分で距離を取った。


「あーぅ!あ!(よいか!そこにおれよ!)」


 念を押し、私は歩行器の枠をぐいっとにぎり気合いを入れる。


 そして見事な足さばきで華麗にスタスタと歩くと、見事コルキスの側に到着した。


「……?」

「あぅ!(どうだ!ハイハイを覚えたばかりの赤子とは思えぬこの見事な二足歩行!)」


 ドヤッと自慢げに胸を反らす。


「……よくわからんが。歩きすぎて足を痛めるかもしれん。使用するのはまた明日にしなさい」


 到着(?)した娘を労うどころか、更なる高みに至るのを阻止された。

 ひょいっと、抱き上げられ私は歩行器から外される。


「あーぅ!あー!(嫌だー!戻してー!もっと歩くー!!)」


 手足をバタバタさせるが、コルキスは気にしない。

 私を抱き上げたまま子供部屋を出ると、そのまま廊下を移動する。


 夕食も終わったし、そろそろ寝かされるのかな?と思ったがそうではなさそうだ。





















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