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課題



「具体的に、認められるというのは、どのような条件があるのでしょうか?」


 ルードリヒのトンデモ発言に、周囲が反応しきれずにいる中、スッと手を上げた者がいた。父王に発言の許可を貰い、そう口にするのは歳の頃なら15,6歳くらいの少年。やや神経質そうな目つきは眼鏡をかけていても隠せていない。


「うん?そうだなぁ、コルヴィナス公爵はどう考える?」

「……」


 まさかの丸投げである。話を振られて、氷の仮面で全ての感情を堪えていたコルキスは、狼のように金色の目をギロリ、と鋭くさせた。怒号こそ発しないが、怒っている。この件はコルキスも知らされていなかったのだろう。


「恐れ多くも王子殿下と、我が娘の婚約のご縁を頂けるということは臣下として最高の栄誉かと存じます。が、娘イザベルはまだ生まれたばかり。どのような気質の娘に育つかもわかりませぬ」


 意訳すると『百歩譲って婚約はさせてもいいが、娘が成長して嫌だっていったら破棄させるからな』ということである。


 氷のように冷たい声で、感情の起伏を全く感じさせず淡々と語るコルキス。寒い。部屋の中は締め切っているはずだし、部屋は暖められているはずなのに、吹雪の中にでもいるかのように寒い。


 勝手に来て決めやがって殺すぞ。とストレートに言わないあたり、コルキスはルードリヒをちゃんと主君と認めているのだろうなぁと私はまたモヤモヤする。


 ……いや別に?コルキスが私以外を主君としていることが気に入らないわけではないし?


「条件、というような大それたものを私が王子殿下に提示するのは無礼かと存じますが。娘を持つ父として、最低限……娘の婚約者は、私より強い者でなければ困りますな」


 意訳しよう。つまり、全員却下、ということだね!!


 英雄狂いの英雄卿と揶揄されるコルキス・コルヴィナス。おとぎ話のバーサーカーの方がまだお行儀がいいんじゃないかと囁かれるほど、戦場での容赦なさと圧倒的な武威がある男。


 戦術を立て、相手の戦略を悉く打ち破り、状況が不利になったら自身の力で押しのける。


 もし私の前世で、コルキスが味方にならず敵のままであれば私は帝位につく事などなかっただろう。


 まぁつまり、この男は単身で普通に強い。


「……」


 質問した眼鏡の少年が顔を引きつらせて黙った。


 それは無謀だ、と言わないあたり王子としてのプライドがあるのだろう。それに父王の面前で自分は剣で家臣に勝てませんと泣き言を抜かすような奴が王太子になれるわけもない。


 いや。


「コルキス・コルヴィナス公爵は我が国最大の英雄。父上の最高の剣と存じます。そのような方に、我々のような若輩者が敵うわけもございません。コルヴィナス公爵、未熟な我らでは小公女のお相手として、公爵が不安に思う気持ちもわかるが、我々の成長値を考慮してはくれまいか?」


 次に発言したのは金色の髪の可愛らしい顔立ちをした少年だった。歳は、十よりまだ幼いだろう少年が難しい言葉をはっきりと喋るものである。


 コルキスは興味を持ったようにその少年を見た。


「セシル殿下」


 と、名を呼び、考えるように少し黙る。


「では、課題を。今回なぜルードリヒ陛下は『今』我が領地へいらしたか。なぜそう思ったか。そして、その答えについて自身が行えると考えられることを、三日以内に探りお答えください」


 コルキスが譲歩した。


 セシルという王子は感謝する様に愛らしく微笑み、礼を述べる。

 そしてそれをニヤニヤ眺めていたルードリヒは「よし!それじゃあ知恵比べだね!」と明るく言い、その場はそれで一度お開きとなった。



**



「ほうほう、それはそれは。中々……面白いことになっておりますな」

「あうあうあーう(他人事だと思って楽しみおって、アーサーめ)」


 場所は変わって私の子供部屋。


 アーサーが私に渡すものがあると訪ねて来た。


 公爵夫人やコルキスは、ルードリヒたちをもてなす晩餐会に出ている。私は赤ん坊であぁいう場にはまだ早いだろうとここでルシアやソニアと食事をとった。


 私の婚約者候補うんぬんの話をルシアから聞いて、アーサーは面白そうに髭を撫でる。


「ねぇ、おじいちゃん。天使さま、じゃなかった、イザベルおじょうさまはけっこんしちゃうの?」

「ソニア。その方は大賢者様です、おじいちゃん、ではありません。それに、貴族の令嬢となれば生まれてすぐにお相手が決まるのも珍しくはありませんよ」


 ソニアはすっかりアーサーを気に入ったようで、長い髭やローブを興味深そうにキラキラした目で眺めながら無邪気に口にする。それをルシアが注意する、という形ができていた。


 アーサーはソニアの無礼を気にしない。というより、大賢者などと呼ばれているが偉ぶるところがないのはこの老人の良い所だ。


「婚約者というのは、あくまで結婚の約束をしている相手ということですからな。それが解消、破棄されることもあるでしょう。が、そもそも、今回はその婚約を結べるかどうか……」

「あーぅ(課題がなー)」


 と、私も頷く。


 単純に考えれば、今回ルードリヒがここへ来た目的は本人の言うように公爵令嬢と婚約させるためだろう。だがなぜ今なのか。今は、雪が積もり行き来が楽というわけではない。そんな中にぞろぞろと王子を全員連れての移動。護衛や連れて行く使用人の数も膨大だ。暖かくなった春、コルキスや私を呼び出せばいい。そして何も私がまだ乳児だ。急ぐ必要もない。先んじてコルキスに相談しておけばいい話だった。


 そして更にその答えについて、王子が自分ができること、とあった。


 婚約する為の最低条件はコルキスより強い事、と提示された後である。誰もが「それは無理だ」と思っているし、コルキスもそれが無理な条件であるのを理解していて言っている。


「(殿下はおわかりになられますか?)」

 

 と、心の中でアーサーが問うてくる。

 イザベルではなく、ロゼリアとして思案せよという。


「(お前がいるからか?)」


 アーサーという、大賢者がここにいる。大賢者が北の塔から出ることはほとんどない。王族として縁を繋げることができれば、それは鉱山一つ以上の価値がある。


 しかし王子たちはまだ大賢者がいることを知らない。まずそれを探れるだけの技量があるかと試しているのかと私は考えるが、アーサーは意地悪そうに微笑むのみで答えてくれない。


 ……と、すると。


 私が知らない何かが、コルキスとアーサーの間で今、起きているということか。

 


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