嵐のような男
「と、いうことでね。息子たちを連れて来た。好きなのを選んでくれないか?」
何が「と、いうこと」なのかさっぱりわからない。
盗んだ馬を無事に戻して、私は再び赤子の姿に。幸いにして留守にしたのを「お嬢さまがかくれんぼを覚えてしまわれた!」と受け取られ、脱走はバレなかった。周りが忙しくてそれどころではなかったというのもあるのだろう。
さて、そして私も着飾らせられて、ルシアの……いや、同じく着飾ったリコリス・コルヴィナス公爵夫人の腕に抱かれる。
突然の訪問者をおもてなしするのに、女主人の存在が必要不可欠、あるいはコルキスとリコリスの間で何かやり取りがされたのだろうか。無事にリコリスはイザベルの母親として続投することとなったようだ。
「それにしても、君の領地は相変わらず平穏そうだね。道中魔物に襲われることもなかったし、夜盗も出なかったよ」
「……」
到着しました御一行。
なんと、国王陛下とそのご子息、護衛やら使用人たちという大規模な団体客。それが何の事前連絡も相談もなしにやってきた。私なら追い返すが、立場上そういうわけにもいかないだろうコルキスは氷のような表情でそれを受け入れた。
「(……ルードリヒ……?あの、イカレたアホが……コルキスの王なのか?)」
私は素直に驚く。
コルキスがアグドニグルでない国の公爵になっていることも驚きだが、その国の主がよりにもよってルードリヒ。
前々世で私が何度も戦い、何度も『二度と来るな!!』とブチ切れた相手である。
ルードリヒ二世。ドルツィアの国主にして、他人の地雷の上でタップダンスを踊るのが趣味なんじゃないかと思われるイカレ男。
追い払っても追い払っても……毎年のイベントだとでもいうように、我が国にちょっかいをかけてきては人が折角整えた道を荒したり、田畑を焼いたり……私の前々世の後悔のうち『あのイカレ野郎より先に死んだ』というのがあるが、できればルードリヒより長生きして一日でも、ルードリヒのいない平和な世界で生きたかった……ほど!私を煩わせたイカレ野郎である。
コルキスも大概クソ野郎だが、ルードリヒもまた方向性の違うクソだ。
そのクソ野郎とイカレ野郎が主従関係……?
「……」
もやっ、と私の中に沸く感情。一瞬で消えたが、きっとそれは『あの二人が手を組んで世界征服でもするのか!!!そうなのかー!!』という危機感だろう。
「さ!寒い雪道をわざわざやってきたんだ!早く君の素敵な奥方と御令嬢を紹介してくれないかい?」
私の心中など知るわけもなし、ルードリヒは形式上の挨拶を終えると、私とリコリスの方に好意的な視線を向ける。
その、誰にでも愛されるような人たらしの顏と目を見て、私は理屈抜きで察知した。理由や動機はわからない。が、先の誘拐事件、公爵夫人にアグドニグルの人間を引き合わせた黒幕はこいつだ。
「……あーぅあ(貴様か、ルードリヒ。我が母を陥れたのは)」
「この子が君の娘?可愛いね!」
私が睨み付けているにも関わらず、へらり、とルードリヒは笑ってはしゃぐ。四十にはなるだろう男が少年のようだ。
「……陛下。娘のイザベルと、妻のリコリスです」
無表情のままコルキスは淡々と私たちを紹介し、公爵夫人と国王の間に割って入った。無遠慮な男の視線から家族を守る家長、のようで、私はリコリスが一瞬嬉しそうな顔をしたのを見逃さない。
「ははは、取って食いやしないさ。と、いうことでね。息子たちを連れて来た。好きなのを選んでくれないか?」
と、ルードリヒは冒頭の言葉を再び口にする。
「選ぶ?」
「うん、そうさ。息子たちを全員連れてきた。母親の身分、現在の能力評価に関係なしに全員ね」
いらずらっぽくウィンクをして、ルードリヒは少年の顏から覇王と呼ばれるだけに相応しい、威厳のある表情になり、息子たちを振り返る。
「さて、我が愛すべき息子たちよ。知っての通り、コルキス・コルヴィナス公爵は余の最大の忠臣であり宝であり、国を滅ぼすことのできる剣である。そのコルヴィナス公爵に認められ、その御令嬢を娶る者こそ、我が王太子に相応しいと余は考えるが。どうであろうか」
ドルツィアは現在王太子が立てられていない。王子は十五人。長子は十八歳と成人した年齢であるのに自分が次の後継者をはっきりと指名しないため国内の、妃や側室たちの権力争いは続いていて悲しい、などとルードリヒは嘯く。
「余は全ての子を平等に愛している。ゆえに、王子らよ、玉座を得たいのであれば我が剣に認められ、自らの手で次の王に相応しいと証明せよ。期間は一週間、この屋敷に滞在する冬の間のみである」
え、こいつなに、突然人の家にやってきて、お家騒動起こしてくれやがりますの??
しかも堂々と、私の嫁ぎ先を王室に決めやがってないか??




