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負けるもんか幸せ家族計画ッ!



 させるかぁっ!!


「おぎゃぁあああぁああ!!!!」

「イザベルお嬢さま!!?」

「あーうぇぇえええ!!」


 赤子の私は必死に、騎士たちに連行されゆく公爵夫人に手を伸ばす。突然見知らぬ騎士たちが入ってきた恐怖からではなく、母親が何か酷い目に遭うのではないかと赤ん坊ながら察して泣いているかのように。


 私はルシアの腕を乱暴に振りほどき、どさり、と食堂の床に落ちる。あっ、と周囲が息を飲んだが、体の痛みより先に、両手両足を使って……ハイハイ開始!!


「えぇえっ!!?イザベルお嬢さま……!!?え!?」


 ふははははは!!どうだ!私の初ハイハイ!!見事であろう!!優雅、とはちょっと違うかもしれんが!!お披露目するのはもう少し待とうかな、とか企んでいたが!!実はこっそり深夜に練習していました!!!


 乳母であるルシアも私の成長速度を「そろそろハイハイをされる頃かと思うのですが……お嬢さまはゆっくり成長なさってくださいね」と計りかねていた。当然!己の身体機能をある程度隠すのは王族の嗜みよ!!!あっ、もう王族じゃなかった!!まぁいいや!!


「うわっ!こっちきた!!」

「おいっ、踏み潰すなよ!!?」

「動くなって!!」


 初めてお会いする騎士たちも、コルヴィナス公爵令嬢はまだ乳母に抱かれねば移動できない赤子と聞いていたのだろう。突然俊敏に動くゼロ歳児にあたふたと狼狽える。


 ふはははははは!!やはり自らの意思で自由に動けるのは良いな!!


「イザベル」


 と、そのように本来の目的を忘れ歩き回っている私を、ひょいっと抱き上げる二本の優しい腕。


「公爵家の娘が、かように暴れてはなりません」

「あーうえ」


 公爵夫人は騎士たちの隙間をぬい、私を抱き上げるとやや厳しい顔付きをした。


「あーうえ」

「わたくしはあなたの成長を……この目で見る事が今後は叶わぬでしょう。ですが、最後にこうして、あなたが健やかに成長している証を見る事が出来て嬉しく思います」


 公爵夫人はこのまま連行されれば、自分がこの家の女主人として戻ってくることはないだろうと確信しているようだった。


 ……私は、先の誘拐事件。この夫人が関わっていても構わないのだ。


 何一つ、彼女に非などない。もし、夫人があの件に関与していたとしたら、それは彼女を妻にしておきながら、不当に扱い続けたコルキス・コルヴィナスの自業自得というもの。


 血のつながらぬ、どこの誰ともわからない赤ん坊に対して、彼女は暴力を振るったり暴言を吐いたりしなかった。自分は子どもを失ったのに、自分の子ではない子を、優しく眺めて、抱いて、あやしてくれる腕に何か思うことが、ないわけがないだろう。


「あーうぇ、やぁ」


 ぎゅっと、私は公爵夫人の服を掴みイヤイヤと首を振る。


「イザベル、我がままを言ってはなりません」


 無理に引き離そうとすれば私は大泣きするぞ。公爵令嬢を泣かせていいのか、と周囲の騎士を睨み付けると公爵夫人に窘められる。


「ルシア。イザベルを」

「……はい、公爵夫人」


 ルシアは騎士たちの間を進み、公爵夫人から私を引き取った。が、赤子の私は公爵夫人の服を掴んで放さない。


 放すものかぁあああ!!


「おぎゃぁぁああ!!!!(これあれだろ!!?私が手を放したら二度と会えないんだろ!!わかってるんだからな!実際無実か冤罪かはさておき、もし冤罪だとしてもハメられたのをコルキスがわかっていないはずもなし、もう用済みだとばかりの処分も入ってるんだろふざけんなよあの糞野郎!!アーサー!さっきから飯を食い続けてないで加勢しろ!!)」


 私はこの状況で「やっと静かに食事ができる」とばかりに、メインのローラン牛のステーキにたっぷりとソースを付けて食している大賢者を呼んだ。


「(イザベル様、事実、その女性はあなた様の誘拐事件に関与しておりますよ)」

「(あーそう!?だからなんだ!?そこまで追い込んだコルキスが悪いわ!本来であれば慰謝料をたっぷり請求して今頃優雅な独身生活を取り戻していておかしくない立場なんだぞ!)」

「(北の塔の騎士を傷付け、公爵令嬢を攫ったこの事件。どこかで落としどころを見つけねばなりません)」

「(それが公爵夫人か!?見損なったぞアーサー!円卓の騎士は憐れな女に責任を負わせることをよしとするのか!)」


 罵倒すると、やれやれ、と言わんばかりにアーサーは立ち上がった。

 赤ん坊が大泣きする状況、動き出す大賢者に周囲が反応する。


「公爵夫人には親切にしていただいた。それでは、夫人にかけられている嫌疑について、取り調べを行う間……私が夫人の弁護人となりましょう」






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