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天才



 注意深く、誘拐犯たちを観察する。人種は、やはり我が国アグドニグルの者。特徴的な白い肌に、やや尖った耳。


 ……と、いうことは、この犯罪者どもの言う陛下とは、我が弟のカールである可能性が高い。


 しかし、私の愛しい弟カールが、赤子の心臓など貰って喜ぶわけがない。私の弟は気が弱く、しかし誰よりも心根の優しい少年だった。私の死後は帝位を継いで立派に国を治めてくれているだろうと信じられる。


 その子が望んで、ではないなら、家臣らが勝手に考えて暴走している、これだな!!


 私であれば部下が暴走する前に事前に企みを察知して完膚なきまでに叩きのめすが、弟は花が枯れるのを見ても心を痛めるような子なのだ!!「自分のためにしてくれているのだから……」と力で黙らせられないに違いない!!


「おぎゃあ!!(ならば!ここで私が我が弟に代わって成敗してくれる!そこになおれぇい!!)」

「なんだ……急に元気になったな」

「おい、黙らせろ。距離を取れているとはいえ……」


 男たちの声はそれ以上続かなかった。


 ザン、と鈍い音。一閃。


 首が落ちる。


 ごろごろ、と、四人いた内の三人。最後の一人は私を持っている者だ。


「!!?」


 何が起きたのか、一瞬誘拐犯たちはわからなかったに違いない。わからないまま死ねて幸福だな、と思う。


 生き残った気の毒な誘拐犯は、びくりと体を強張らせ、しかしこちらもプロなのだろう。素早く私を捕らえる腕の力を込めて、武器を抜く。


「きっ、貴様……!コルキス・コルヴィナス……!なぜここに!!?」


 叫ぶ誘拐犯の前には一人の男。


 月夜に浮かぶ、紺を僅かに垂らしたような暗い髪に、獣のように光る黄金の目。全身に敵意と殺意を漲らせ、血の付いた剣を軽く払う長身の騎士。


 ホラー映像以外の何物でもないな。


 私が普通の赤子だったらここで全力で泣き叫んでるし、何なら今後絶対にこんな恐ろしい父親には懐かない。


「俺の娘に触れているその手だが……抱き方がまるでなっていない。赤子というのは骨がもろい。捻挫や骨折をしていたらどうする」


 今この誘拐犯を殺したら私が落ちて怪我をするから生かしているのだろう。協力者とか吐かせないと駄目だから殺しちゃだめだぞ!と言いたい。まぁ、コルキスはその辺ちゃんとしているはずだ。


「娘よ。父が来た、少し我慢していなさい」


「おぎゃあー!(ここぞとばかりの父親面!)」


 私が自分を見て声を上げたのを、どうして『娘が助けを求めている』と解釈するのか。できるのか。昔から私に関しての解釈がおかしい。あれはそう、私が『お前の声を聞くと吐き気がする。近づくな』とはっきり拒絶した時、なぜかコルキスは『顏はお気に召していただいている』と解釈して喜んだ。どうしてそうなる。


 作戦を読み違えたりはしないし、なんなら敵の暗号をあっさり解読するほど頭がいいはずなのだが、どうしてそうなる。


「忌まわしき薔薇の魔女の男娼風情が……!我が国を裏切り敵国につく恥知らずめ!元々この赤子は我らの手に落ちるはずだったものを!横取りしおって!!」


 誘拐犯は吠える。この状況でもビビリ散らして命乞いをしないあたり立派だ。話し方や物腰からして、もしやこの誘拐犯。本職は正式な騎士ではないだろうか。剣の構え方にも隙がない。赤子を抱いているが、きちんとコルキスと切り結べそうだ。二回くらいは。


「わけのわからんことを。それで、協力者は他にいくらいる?我が屋敷を襲撃程度で入り込めるわけもない。屋敷内の者で手引き、あるいは情報を流したものがいるはずだが」


「ふん、言うと思うのか。裏切り者が裏切られたなど笑い種だな」


 先ほどからこの誘拐犯、コルキスを挑発しようとしている。というより時間稼ぎか。援軍が来る、あるいは……。


「移動用のスクロールはもう発動できんぞ。気付いていなかったか?俺を送った移動魔術はアーサー卿のもの。未だ発動中だ」


 コルキスは頭上から降ってきた。そして上には、未だ輝く巨大な魔法陣。


「ばかな……!あのジジイは暫く起きられない筈だ!」


「大賢者を貴様の基準で図ろうなどと愚か者め。己が最も近くにいたのに、みすみす赤子を奪われた円卓の騎士が、のうのうと寝ていると思うのか」


 おい、待て。それじゃあ、アーサーは、大けがをしているのに治療もきちんと受けずコルキスを送り出した長距離の魔法陣に、そしてこの一帯の魔力発動を封じているのか。


「おぎゃあ!!(死んだらどうする!!)」


 愚か者はどちら!コルキスとて大賢者の価値をわかっているだろう。何の価値もない赤ん坊と、大賢者のどちらが世界に有用か。そしてアーサーが自身の領地で命を落とせば、どんな理由があろうとコルキスだって北の塔の連中を敵に回すことになる。


 赤子一人になにをしているか!!


 怒鳴るが、赤ん坊の声では何も伝えられない。コルキスは目を細め、私が怖がっているとでも思ったのか、ふと剣を見て、鞘に納める。馬鹿なの!!?


 そしてそれを隙と見た誘拐犯がコルキスに斬りかかった。


 一閃。


 一瞬で抜き、斬り、納める。赤子の目には剣が抜けたとは思えない。まぁ、私は見えるが。

 誘拐犯は両腕を切り落とされた。噴き出す血が私にかかる前に、コルキスは私を奪い取る。


「さて、娘よ。帰るとしよう。まだ祝いのケーキが残っている」




余談

『黄金の指輪を所持していた場合』

薔薇の剣帝の姿になった殿下とコルさんが鉢合わせてしまい、そのままコルさんの愉快な監禁ヤンデレルートに入ります。未来視した冥王様が黄金の指輪を回収して阻止しています。


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