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*番外:ブクマ200感謝記念短編*



「……本当に、よろしいのですか?」


 何度も念を押すのは無礼だとルシアはわかっているが、それでも四度、同じことを確認してしまった。目の前には夜着に身を包み厚手のガウンを着たコルヴィナス公爵。


 場所は書斎。時刻は深夜。

 日中、昼寝をさせ過ぎてしまったせいか、公爵令嬢は中々眠りにつかなかった。いや、眠りはしたのだ。二時間ほど。しかし目が覚めてしまい、普段であれば大人しく寝つきの良い子が夜間の覚醒……大変お元気であそばされている。


 日中であれば遊び相手になるソニアは深い眠りの中。ルシアは乳母として辛抱強く眠らぬ姫君のお相手をしていたのだけれど、深夜に子供部屋の魔術の灯りがついていることに気付いた公爵がわざわざやってきて、自分はまだ眠らないので娘を見ている、と申し出てきたのだ。


「自分の娘を見るのに、それほど信用がないのか」

「いえ、失礼いたしました」


 公爵はルシアには睡眠をきちんととらせ、日中のこもりをきちんとできるよう体調を整えろという意図があるのはわかっている。しかし、あのコルキス・コルヴィナス卿が?思わずにはいられない。


 ルシアは昔、とある貴族の家のメイドをしていた。その家の主人の御手が付き、ハンスを身ごもったルシアを人はふしだらな女だと指差した。今は亡くなった夫は、そんなルシアを受け入れてくれて、幸せな家庭を持つことができたが……それはともかく、そのお屋敷勤めの時代に、『英雄狂いの英雄卿』と揶揄される恐ろしい貴族の話を聞いたことがある。


 曰く、元々生まれた国を裏切り、悪名高き薔薇の剣帝の愛人になった男。

 曰く、滅ぼした街や村は数知れず、屠った敵将の首で城壁を築ける男。


 などと、恐ろしい噂話は尽きない。


 こうしてお仕えしていて、噂ほど恐ろしい方でないことは段々理解してきた。実子である公爵令嬢のことを大切にしたいと考えているのに、どうすれば大切にできるのかも何も知らない、気の毒な方。


「それでは……私は失礼させて頂きますが……もし何かあれば、遠慮なくお呼びください」


 思えばこうしてお嬢さまと二人きりになれる時間は貴重なのだろう。

 それを邪魔してはならないと気付き、ルシアは丁寧に頭を下げて退室する。




**





「……なんだ、これで遊びたいのか?」


 暖炉の前に置いた長椅子に、赤子を座らせたコルキスは読書でもしていようと考えていたが、赤子はあちこち動き回りまったくじっとしていることがない。


 放っておいても何か痛いことがあれば自分でやめるだろうと思うが、どうも、目が離せないもの。コルキスはじぃっとじっと、自身は安楽椅子に座りながら長い脚を伸ばし赤子の様子を観察した。


 赤子。赤い髪に青い瞳を持つ子ども。


 例の。あの忌々しい、恥知らずな国では王命によりこの色を持つ女児は悉く殺されているという。しかし、人種的な問題で赤い髪に青い目で生まれてくるのはあの国の人間しかいない。コルキスの妻となった公爵夫人、本来の名をリコリスというあの女も、母親があの国の生まれだった。


「それはマンカラという玩具だ。お前にはまだ早いらしいぞ」


 赤子は板に丸くくぼみをあけたおもちゃに興味を持ったようだ。棚に飾られているそれは、元々はこの赤子に遊ばせようとコルキスが職人に造らせたものだが、ルシアに「お嬢さまにはまだ早すぎます。このガラス玉を食べてしまいます」と止められた。


「あ、ぅー」

「美しいだろう。遥か遠い異国のものだ。この窪みの中に石を入れて遊ぶ」


 コルキスは棚からおもちゃを取り、赤子の前に置く。自分が見ていればあやまってガラス玉を口に入れてもすぐに吐き出させられるだろう。


 ……というより、そもそも、こうした小さな欠片に興味を示すのなら、もともと飴細工でつくればよいのではないだろうか?


 明日料理長に命じて早速作らせようとコルキスは決める。


「私はこの遊びが強くてな」

「あーぅ」

「なんだ、疑っているのか?恐れを知らぬやつめ」


 自慢ではなく事実を言うと、赤子は胡散臭そうな目を自分に向けて来た。赤子もこういう感情豊かな顔をするのか。日中は乳母や公爵夫人、それに乳母の娘に遊んでもらい笑ってばかりいる赤子だが、今は随分と静かな表情をしている。


 手慰みにコツコツとコルキスは石を動かす。


 それを真似ているだけだろう。赤子も石を動かした。


「……」


 暖炉の灯りがガラス玉を輝かせる。コツコツと、石を動かす軽い音。


「…………まさか、な」

「きゃ~う!きゃっきゃ!!」


 偶然、だろう。


 暫く動かして、コルキスは偶然にも赤子が自分を負かしていることに気付いた。ルールを理解しているわけがない。しかし適当に自分の真似をしているだけと思っていた赤子は、いつのまにか勝っていた。


 ……いや、今のは。ただ自分が何も考えず適当に石を置いていたからだ。気を取り直し、コルキスは再び最初の位置に石を並べ直す。


「よし、再戦だ」

「きゃ~~うっ!」


 手合わせ願おう、と真面目な顏になったコルキスに、赤子はマンカラの石を投げつけた。


 そろそろ眠いそうだ。





FIN

評価、ブックマーク、誤字脱字の報告ありがとうございます!!これからも精進致します。

5/17の日間異世界転移・恋愛にて18位になっていました。ありがとうございます。

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