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誘拐事件勃発



(アーサー!!)


 血を流して倒れる祖父を見て、私は動揺した。


 瞬時に転移魔法で場所が変わり、私を攫った黒尽くめの男が私を乱暴に麻袋の中に入れる。視界が暗くなり、振動。走って移動しているのだろう。転移魔法というのは膨大な魔力と魔法陣を必要とする。それを、この男がやったようにスクロール一本で発動させれば、それは短い距離の移動しかできないはずだ。


「おぎゃあ!!おぎゃあ!!(アーサー!アーサー!!)」


 私は叫ぶ。

 あんなに、血が出ていた。頭を強く殴られた。


 魔法使いに対して、有用な攻撃だ。魔法を使うにはどうしても呪文を唱える必要がある。人間は頭を強く殴打されると、一瞬、言葉を使うことができなくなるものだ。


 心が動揺していた。

 自分の肉親といえる存在は弟のカールくらいで父や母は死のうが苦しもうがなんだろうが気にもならなかった。しかし、私はアーサーが倒れた瞬間、心から恐怖を感じていた。


 目的は私の誘拐だから、アーサーはすぐに手当てされるだろう。北の塔の賢者連中が揃っているのだから、医術に長けた者だっているはずだ。


 そう自分の心に言い聞かせる。どうも、赤ん坊の幼い心が私の中にはあるようだ。その、泣きじゃくる私の心に、冷静な薔薇の剣帝たる私は言い聞かせる。


(……それにしても、なぜ私を誘拐?しかも、この場面で、だ)


 別の事を考えようと、私はこの状況について思考する。

 黒尽くめの男は何ものだ。


 硝子が割れた音は、私の乳母車から離れた場所から聞こえた。おそらく、何か騒動を起こして気を逸らして、ということだろう。


 私は一応、コルキスの娘である。公爵令嬢。身代金や何か脅迫目的での誘拐、というのは大いにある。あるが、しかし今夜は北の塔から賢者たち……つまり、大物、重要な人間が多く滞在し、屋敷の警備だって、普段以上に厳重なものになっていたはず。

 

(……警備対象が分散された、か?)


 普段であれば屋敷の警護対象は公爵夫人、公爵令嬢……あとまぁ、守る必要が全くないと思うが、公爵本人。それが今は、北の塔の連中全員と一気に増えた。お客様に、それも北の者を怪我とかさせたら色々面倒くさくなるからな。


「遅いぞ。何かあったのか?」

「移動のスクロールの効果を弱められた。北の大賢者がいるなどと聞いていないぞ」


 一度移動が止まったようだった。そして人の気配が複数する。ここが元々の合流地点らしいことが会話から推測できるが……アーサーはあの一瞬、詠唱無しでそんなことをしたのか。


(……バカものめ。そんなことをするより、自分の身を守る魔法でも使えばよかったものを)


 私は内心罵り、ぎゅっと掌を握る。


 死神くんや烏がくれた黄金の指輪は、一度私の体を十六歳のものにした際に消えてしまった。再び私があの体になることはできないだろう。周囲に病魔の気配もない。ということは、今の私は無力な赤子だ。


「で、これが例の赤ん坊か?」

「あぁ。あの英雄狂いのコルヴィナスに奪われるとは思わなかったが……」


 私は麻袋の中から出される。月明りに照らされて見えたのは、どこをどう切り取っても怪しい集団。何か正体の手掛かりになるものはないかと注意深く観察するものの、全身黒い服をきて口元を布で覆っているのでわかることなど……年齢、人種、持病の有無くらいしかない。


「おぎゃあ(うん?どういうことだ?元々……そういえば私、誰の子??)」


 気付けば人買いにドナドナされていたけれど、生みの親は公爵夫人ではない。まさか木の股から生まれたわけもなし、この赤ん坊の私を産んだ者、精子提供した者、両親がいるはずだ。


 コルキスは赤い髪に青い目の赤ん坊を適当に探していて、それに該当するのが私だったわけだ。さすがにコルキスも両親がご健在のごく普通のご家庭から赤子を攫うようなクソではないだろう。と、いうことは、私はもともと……孤児、あるいは売られ、またはどこかから攫われていた?


「見ろ、この、我々の血のように赤い髪。魔物の血と同じ青い瞳。血塗れた色を持つ呪いの子だ」

「この赤ん坊の心臓を捧げれば……」


 なんだ、こいつら邪神か何かでも崇めているのだろうか。赤ん坊を生贄になど、穏やかではない。私が生きていた時代にもいくつか邪神教はあった。気に入らないので滅ぼして回ったが……さすがに私の短い人生で全て葬れるわけもなし。生き残っていたところだろうか。そんなことを考えていると、黒尽くめの男は話を続ける。


「あぁ、我らが偉大なる太陽王。カール陛下も、これでお喜びになる」




 ……奇遇だな。

 

 私の弟も、カールっていうんだよね。


気付けばブックマークが200いっておりました……読切効果かな……ありがとうございます。毎日更新がんばります!

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