変動
「わぁ!!おじいさん、おひげがとっても立派ね!!」
アーサーが私と屋内へ戻ろうとすると、その前に私たちを迎えに来た者がいた。
「おやおや、これはこれは。可愛らしいお嬢さんだ」
オレンジ色のドレスを着て、髪にはレースのリボン。貴族の子どもがおめかしをしている、というよりは若干地味だが、使用人の子どもがここまで着飾って貰えることはないだろうという絶妙なバランス。
公爵夫人は信頼するルシアの娘であるソニアをめいいっぱい着飾ってみたかったようだが、「使用人にそこまでなさってはなりません」とルシアが断った。それでこういう感じになったのだ。
「ごきげんよう。もしや、我々を呼びに来てくださったのですかな?」
「!えぇ!こーしゃくさまが、かぜがつめたいからいつまでもそとにいたらだめだろうなにをかんがえているんだってぶつぶつおっしゃってるから、お母さんが私に行ってきなさいって」
アーサーはソニアを見て礼儀正しく挨拶をした。それで、自分も一人のレディとして扱われたことが嬉しかったのだろう。ソニアはドレスの裾をつまんでもじもじとしながら、お行儀よく用件を告げる。
「……なるほど。ところで、お嬢さんは……洗礼を受けているかね?」
「せんれい?」
「大きな街の神殿で、神様にご挨拶をしたことは?」
「うーん、と。今まで村からでたことがなかったから、ないとおもう」
「……そうですか」
え?何?
じぃっと、アーサーはソニアを見つめる。何かあるのか?
私は聞きたかったが、アーサーは答えない。そしてすぐに顏に笑顔を浮かべると、ソニアに「それでは案内していただけますか」とお願いし、二人は歩き出した。
***
音楽隊の美しい演奏。素敵な料理の数々。公爵夫人の準備した宴は大成功と言えるだろう。
さて、そして本日のメインイベントが行われる。
「親愛なるコルヴィナス公爵令嬢。我ら北の塔の騎士を代表して、御令嬢の御誕生、お慶び申し上げます」
粛々と、アーサーが言祝ぐ。
名付け親イベントでは、私は豪奢な乳母車の中に寝かされ周囲の灯りは落とされ、乳母車の頭上に魔法の灯りが輝く。星屑が降り注ぐように、キラキラとした光のかけらが舞い、ローブを纏う老人がそっと寄り添う光景はおとぎ話のワンシーンのようだろう。
「きゃっきゃ」
「(殿下、黙っていてください)」
主演女優であるので、見事な祝福される赤ん坊を演じようと赤子らしい笑い声をあげてみたのだが、心の中でアーサーに拒否られる。解せぬ。
この、笑ったらいけない場面で誰もが緊張している中、愛らしい子どもの声が聞こえたら和むだろうと言う私の配慮がわからないとは。これだから賢者というのは引きこもりの社交性皆無な者なのだ。
「公爵令嬢に妖精の祝福があらんことを」
長ったらしい呪文のようなお祝いの言葉を一度も噛まずに言い切って、アーサーは妖精の粉という名の金粉を私にふりかける。
さて、そして次に私の名がアーサーより告げられる……はずだった。
ガラスが割れる大きな音。
女性たちの悲鳴。
すかさず剣を抜く騎士たち。
私は乳母車の中でそれらの気配を感じ、そして、この場で唯一明るい場所に立っているアーサーが、突然背後に現れた黒服に頭を殴られるのを見た。
「おぎゃぁあああ!!!!」
演技ではなく、赤ん坊の私の心があげる悲鳴。
頭から血を噴き出し、アーサーが倒れる。どさりと大きな音。私は何もできず、その黒服が私を抱き上げ、転移魔法を使うのをただ眺めていた。
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