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北の塔のお客様



 公爵夫人ローザは元々それなりの貴族の娘だったらしい。といって、亡国の今は無き家紋。コルキス・コルヴィナスの率いる軍に国が滅ぼされた際、その見た目から命を救われたそうだ。


「ねぇルシア、北の塔の賢者様をお迎えにするのに、このカーテンは派手かしら?」


 すっかりルシアと打ち解けた公爵夫人は、私を見に来るという名目でしょっちゅう子供部屋を訪れては、あれこれ相談をしてくる。身の内話をしたのもその時だ。


 深緑色のカーテンの見本を持ってきて、見せる公爵夫人にルシアは僅かに首を傾げた。


「北の尊き方々のことはあまり存じ上げませんが、公爵夫人のお選びになられたこちらの色はとても深く美しいと思われます。緑はひとの心を落ち着かせる色だとも聞きますので、格式やしきたりももちろん大切ではございますが……遠き地よりお嬢さまのためにいらっしゃる方々に寛ぎをと願われる公爵夫人の真心をかの方々は受け取ってくださるのではないでしょうか」


 さすがルシアである。受け答えが百点満点だ。公爵夫人はこの色がいいのだ。色々考えた末に選んで手配している。けれど不安で、一押し欲しい。そこにこのルシアの答え。


「そうかしら?あなたが言うならきっとそうね」


 公爵夫人は瞳を輝かせ、満足そうに頷く。そして柔らかい絨毯の上で積み木を転がしている私を抱き上げた。もうすっかり手慣れたもので、ちょっとGを感じるものの、体への負担のない抱き方をしてくれる。


「わたくしの可愛い子。もうすぐあなたに名前が付くのよ。お父さまである公爵様はあなたのために、北の塔から賢者の方々をお招きして名付け親になっていただくのですって」


「おぎゃあ、おぎゃあ(大げさだよな!っていうか絶対、賢者どもも『名付け親に……?これは、どういう比喩……隠語なんだ?』って頭悩ませてると思うよ!呼ぶのにいくら包んだんだろうな!!)」


 小金程度では動かない北の連中。研究資金を集めるためにわりとがめつい所もあるものどもが、遠路はるばる海を渡ってやってくるのに『子供の名付け親』などというのは、全くもって有り得ないだろう。


 きちんと正規の使者を立ててのお申込みらしいが、私が賢者だったら『あの英雄狂いのコルキス・コルヴィナスが子供の名付け親になってくれだと!!?何を企んでいる!!』と全力で警戒する。普通する。みんなそうする。


「まぁ、こんなにはしゃいで。あなたも楽しみなのね」


「(誤解~~ものすごく誤解~~)」


 悲しい赤子の心は母には通じない。


 しかし、お客様をお迎えするということで屋敷内を取り仕切る公爵夫人は楽しそうだ。料理献立や音楽隊の手配、屋敷の改装、庭の花の収穫指示など、お客様がいらっしゃるまでにやらねばならないことは山積みである。


 活気づく屋敷内。日々の生活を問題なく維持し続けることも大切だが、こうしたイベントは屋敷で働く者たちにとっても良い気分転換になる。


(まぁ、塔の連中も警戒してそれなりに話のわかるやつを派遣するだろう)


 塔の者たちは基本的に研究者肌で、社交性皆無の根暗共ばかり。しかしそれでは色々都合も悪いので、こういう「スポンサー対応専門」の……まぁ、窓口のような者がいたはずだ。


 さくっと手早く済ませて公爵夫人のもてなしを受けて、帰れ!!

 あとは皆でお疲れさまパーティするから!!


 







「それで、いったい。これはなんの茶番でございましょうや。ロゼリア姫」


 五日後。

 先触れ通り到着した北の塔からのお客様。

 

 その一団を率いる大賢者にして塔の最高責任者は、私を胡乱な目で見下ろし、冷たく言い放った。





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