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*閑話:ルードリヒ二世*

時系列はハンス家が駆け込んでくる少し前です。


「君に子供が出来たんだって?お祝いの品は何がいい?」


 王都の王宮、玉座ではなく執務室の椅子にふんぞり返っているのはこの国の王ルードリヒ二世である。


 急用だと呼び出され領地を出て駆け付けたコルキスを迎えたこの王は、別名「狂王」とも呼ばれている。何しろあちこちに戦争を仕掛けては荒し、次々に領土を増やしていくのだ。コルキスが領地として治めている今の地も、十五年前は別の国だった。


「何もいらん。用がないなら私は帰るぞ」


 国王と臣下、であるが、コルキスとルードリヒは周囲の目がないときは互いにぞんざいな口を聞く。実際のところ、お互いはお互いを対等だと考えていた。


「例の国のね、国王がそろそろ死にそうだ」

「……」

「心労もあるんじゃないのかい?美しくも偉大なる剣帝に対してあんな仕打ちをしたんだ。良心が咎めて、かつての立派な赤い髪は見る影もなく真っ白くなり、顔には苦悩がありありと浮かんでいるそうだよ」

「自業自得だ。が、死なれては困る」

「うん、そうだね。きちんと戦場で負かして、敗戦の王にしてあげないと。君との約束もある」


 ルードリヒは手元の金の細工を手で遊びながら、十五年前のことを思い出していた。


 例の国にとって、最大のライバルであったこの国に突然亡命してきたコルキス・コルヴィナス。二度目の亡命は、騎士としてあまり褒められたものではない。コロコロと主君を変えるような男など誰が信用するか、と並の王であれば思うだろう。


 だが、ルードリヒは受け入れた。


 コルキス・コルヴィナスという男は、その天才的な才能と英雄狂いとまで言われた異常なほどの武勲の全てをルードリヒに奉げ、ルードリヒの願いを全て叶えると誓った。


 その代わり、ただ一つ、例の国を、王が存命の内に滅ぼすのに協力しろと、そう、言ってきた。


 “例の国”は、かつて美しい薔薇の剣帝が収めていた。短い間だが、ルードリヒは何度も彼女の国にちょっかいをかけては、追い払われた。他国を蹂躙することを容易く行ってきたルードリヒが唯一、勝てなかった国は、薔薇の剣帝の死後はその弟が治めていた。


 その弟が、国中に触れ回った内容は、コルキスを激昂させ、その剣をルードリヒに奉げさせることとなった。


「うん、よかった」

「何がだ」

「子どもが生まれて、君の憎しみの炎が弱まってしまったんじゃないかと心配になってね」

「そんなことがあるものか」


 ぴしり、と、コルキスが掴む椅子のひじかけが軋む。

 ルードリヒはそれを目を細めて眺め、満足そうに頷いた。


 赤い髪に青い目の女を囲って妻にしていることはもちろん知っている。密偵曰く、死産したそうだ。そしてその代役に適当な赤子を買ったようだが、その赤子は領地の村で適当に育てているらしい。


「子どもは君にとって、なんの意味もないようだね」


 たった一人の女のために世界を全て敵にしようと構わない男。その熱意を、ルードリヒは愛していた。例の国の恥知らずな振る舞いについてルードリヒ自身思うことはあれど、コルキスがいなければ薔薇の剣帝とのあったかもしれない友情を考慮して手出しをしないつもりだった。


 しかし、コルキス・コルヴィナスが自分の前に現れた。燃えるような憎しみを抱いた男が、狂王の前に跪いて薪になれという。


 自身は家臣に、他人にここまで想われるだろうか。ないだろうと、わかっていた。この男のような存在は、自分には得られない。


 だがその苛烈で稀有でいじらしい男が、この自分を薪に選んだことが、案外ルードリヒには嬉しいらしかった。


 それで、手を貸すことにした。例の国が難攻不落であったのは過去の事。麗しき薔薇の剣帝亡き後、残された者どもはたった一人を除いてルードリヒの敵ではなかった。


「冬が明けたら開戦だ」


 領地に戻り、支度をせよと、王の顏で命じると、英雄狂いの公爵は冷たい氷のような貌に酷薄な笑みを浮かべて主君に礼をした。



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