やっぱりこいつ、頭おかしい
「単刀直入に問いますが、あなたは私の殿下ですか」
すやすやと寝息を立てる赤ん坊を無理矢理起こして聞くことか?相変わらず面倒くさい男である。
さて、私は連れて行かれた公爵家の、とても豪華なお部屋。子供部屋にと元々用意されていたのだろう。コルキスの趣味というより、おそらく気の毒な公爵夫人が我が子のためにあれこれ未来に希望を膨らませながら用意しただろうお部屋。
そこのベビーベッドに寝かされた私は「箱とは違うこの寝心地!隙間風も汚臭もない部屋!やはり私に相応しい場所はこういうお金のかかったところ!!もう二度とあんなあばら家で寝たくない!!」と快適さを満喫していたのに、やってきました家主。
お休みしている赤ん坊がいたら「起きるまで待とう」とかそういう心になるのではないか。全く、だからこいつはダメなのだと再度認識し、私はじぃっと、こちらを見下ろしてくるコルキスを見返した。
「殿下は確かに、忌々しい呪いにより命を落とされたはずだ。死体は今もあの国にあると聞く……しかし、あなたほどの方であれば、記憶を有したまま生まれ変わることも……」
ぶつぶつと何やら言っているこれは独り言だ。この男とて本気でこの無力で可愛い赤ん坊が薔薇の剣帝であるとは思っていないだろう。
が、なんらかの関係はあると考えている。
「……あの者たちは殿下が十六歳の姿であったと言っていた……つまり、生まれ変わられたあの方が、この赤子を産み、それを私に託したのか」
どうしてそういう発想になるのだろう。
百歩譲って、そういうことになっていたとしても、私がお前に自分の娘を預けるわけがないだろう。
「おぎゃあ(お前を選んだ理由は一番近場の金持ちだったから以外のなんでもないからな??)」
赤ん坊の言葉では通じるわけもないが、私はとりあえず抗議の声を上げてみる。
「……あの方の子、か。つまり、この子どもの父になれば、私はあの方の夫」
おい。お前もともとこの赤ん坊の父親だったじゃねぇか。
自分で買ってきたんだろう。もう忘れたのか。なんでちょっと嬉しそうなんだ。私があげた抗議の声を「父親の顏がわかるのか」とか嬉しそうに呟くな。抱き上げるな。
何か、間違っている。
何か、色々間違っている。
しかし、赤ん坊を抱き上げるコルキスの腕は、嘘のように優しい。抱き方はややぎこちないものの、壊れ物を扱うように慎重に、丁寧に、恭しく私を抱き上げて、顔を覗きこむ。
「名を付けねばな。あの方によく似た瞳のお前は……」
目を細めて次になんという音を出そうか思案するコルキス。
そう言えば未だに名前がなかったことを思い出した。
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