愛人候補
「わかりました。ご家族の命も助けましょう。村人たちの命に関しては、名無しの姫君の思うようになさってください……」
「(おぉ!気前が良いな!よ!男前!愛人にしてやろうか??)」
渋々、と言った風に死神君が了承したので、私は元気づけてやろうとお世辞を言う。「ぶ、物騒な提案は止めてください!!」と即座に断られた。この私の愛人枠を断るなど恐れ多いぞ??
「……えぇっと、そして、盗賊に関しましては……え?えぇ……えー……」
ちらりと烏の方を見乍らあれこれ言う死神君。なんだ、烏が怖くて集中できないのか。追い払ってやりたいが、赤ん坊では何もできない。
と、思ったら、烏がひょいっと部屋の中にやってきた。そして瀕死のソニアの方へ行く。
食べる気か!!?
烏は死肉を食うというが、まだ死んでませんけど!!!???
私はゴロゴロと転がって烏に体当たりしようとしたが、その前に烏のくちばしがコツンとソニアに触れる。
「(うん?)」
「そんな……冥お……いえ。烏殿自ら勿体ない……!!」
烏が触れると、ソニアの体がシュルシュルと音を立てて治って行く。回復、というより、巻き戻っているような光景だ。
慌ててソニアの方に転がると、静かな寝息を立てる柔らかな子供の、健康的な体になっていた。
「(その烏有能だな!?すごいぞ!)」
私が烏を見上げ褒め称えると、烏は満足そうに一声鳴く。
そしてそのまま私の方に降りてくると、片脚で何か掴んでいたものをコロンと放り出してくる。
「(なにこれ指輪?)」
真っ赤な宝石の付いた妙に豪華な黄金の指輪だ。
売ってこれからの生活の足しにしろってことか?
赤ん坊の指には付けられないのだが、烏はぐいぐいと指輪を押し付けてくる。
これはもしや……先ほどの私と死神君の話を聞いてのことだろうか?
「(なるほど……つまり、愛人になりたい、と)」
「不敬ですよ!!?」
すかさず死神君が突っ込む。
「(いやいや、烏だろうと恩あるものの願いを無碍にはしない)」
「姫君でなく!!」
何やら死神君が喚く。喧しいやつである。
私の頷きに烏は嬉しそうに鳴き、ぐいぐいと頭をこちらに押し付けてくる。そして指輪を赤ん坊にはめようとするのだが、大きさが合うわけがない。
しかし烏の思いをどうにかして報いるべきだと善良な私は承知しているので、親指にはめてみる。
視界が、急に高くなった。
「……うん?なんだ?」
発語すると、それは意味のある言葉になる。
月明りに、血まみれの床。視界の下に転がっているソニアを、「幼女をこんなところに寝かせて!」と反射的に抱き上げた。
抱き上げ……?
「私、大きい」
思わず片言になる。
視界の端に入るのは、真っ黒いレース。ソニアを抱き上げた腕にも、レースの長手袋をしている。
黒のドレスを着ているらしい。私が??
ぺたり、と片手で自分の顏を触る。乳児のものではない。歯も生えている。
肩にとまった烏が満足そうに鳴いた。
「……衣裳のチョイスが悪い!!軍服にせよ!!」
裾がヒラヒラして邪魔だしなんか頭にベールつけてて鬱陶しい!
カッと声を張って命じると、死神君が悲鳴を上げた。
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