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思わぬ手

「いやいやいや、ちょっとちょっと、本当ちょっと、勝手をされると困るんですけど~」


 ブン、と何かを振るような音がした。

 すると、私とソニアを襲っていた盗賊たちの首が落ちる。


「……(なんだ?)」


「なんだ、じゃないですよ本当にもう……どうしてこう、僕の管轄内であれこれ問題ばっかり起きるんです?なんでです?日頃の行いですか?」


 呆気にとられる私を胡乱な目で眺めるのは、以前クレームをつけてきた死神くんだ。青白い顏に黒い髪、人間でいうところの白目の部分が黒い人ならざる存在は死神が命を狩るための大鎌を肩にかけている。


「名無しの姫君、あなたは何が何でも十六歳まで生きなければならない。そう、冥王様がお決めになられました。つまり今日この場で、今の状況ですとこの人間たちがあなたを殺してしまう。ので、死者の名簿にない人間であろうと冥王様は悉く殺せと仰せになられました」


「……(この連中どもは私を攫おうとしただけで殺すつもりはなかったようだが)」


「冥王様は未来を見通されていらっしゃいます。あなたはこの人間たちに殺された」


 私が抵抗したとかそういうことで「ちょっと黙らせよう」とかそういう小さな暴力でも振るわれたか。赤ん坊は脆弱であると乱暴な男たちが理解していなかった結果は大いにある。


「(なるほど……つまり、今こここの場でソニアを死なせたら舌を噛み切って死んでやる!!)」


「えぇええぇええ!!?」


「(この私を可愛いゼロ歳児だと舐めるなよ!!さぁやれ!そこで瀕死になっているソニアを今すぐ死神リストから除外せよ!!)」


 ばーん、と私は大の字になりながら全身をバタつかせる。近くでは首を切られ血だまりを作っている盗賊たちの死体が転がっているが、そんなことよりソニアです。


 気の毒な心優しき幼女は意識を失っていた。呼吸はかろうじてあるが、いつまでもつか……。


「いや!?ちょっと!?……そんな脅しにこの僕が騙されるとでも?」


 私の突然の態度に慌てたものの、死神君はすぐにすぅっと表情を冷たい氷のような感情の籠らないものにする。


「その子ども、別に血縁者というわけでもないでしょう。そんなもののために、命をかけるなんて嘘ですね。それにそもそも――噛み切れる歯とか生えていないでしょうゼロ歳児!!」


「(っは……!!そうだった!!)」


 ガァアンと私はショックを受ける。


 ハンスくんの美味しい離乳食を頂いて育っている私はまだ歯がなかった!


「(くっ……追い詰められた無力な子女の最期の抵抗を言えば舌を噛み切るということであるが……致し方あるまい……かくなる上は、無様だが……!)」


 私は器用にごろり、と寝返りを打つ。ここにハンスくんやハンス母がいたら「もう寝がえりを打てるのか!」ときっと絶賛してくださっただろうが仕方ない!今も遠くでハンスくんたちの叫ぶ声が聞こえるのでお取込み中なのだろう。


 そしてうつ伏せになり、私はゴンッゴンッと頭を床に打ち付けた。


 首はちゃんとすわっているからな!!


「えっ!?ちょっと!止めなさい!!」


 自信満々に頭から血を流す私を死神君が慌てて止めた。


「(離せ無礼者めが!この私をどなたと心得る!!)」


「どなたなんです!?そもそも冥王様直々に延命処置をされるなんて何者です!!」


「(その点に関しましては私も知らん!)」


 冥王誰それ。そういう存在がいるらしいのは知っているが、別に知り合いとかそういうのではない。


 ダラダラ流血が続き、赤子の私の視界が真っ赤になった。


「(さぁどうする!このままではこの乳児は死ぬぞ!そこの幼女を助けぬ限りはな!!)」


「なんて脅しだ……品性も知性の欠片もない……」


 ぐっと、死神君がドン引く。


 しかし私が自分の常識で測れるような言動をしないことと、だんだんソニアが冷たくなってきて焦る私が今度はその辺に転がっているゴミとか布を食べて自殺を図ろうとしたため、観念したように溜息をついた。


 懐から死神の死者名簿らしきものを取り出し、ソニアの名前のあるところに何やらカリカリと書き加える。


「……わかりました。仕方ありません、僕の流儀に反するのですが……その少女は助けましょう」


「(もののついでにソニアの家族、今必死に戦っているハンスくんやお母さま、あとルークも助けよ)」


「調子に乗らないでください」


「(私のような乳飲み子と幼女が二人で今後生き残れると思うのか。保護者と健やかな遊び相手を用意するくらいのアフターケアをしろ。甲斐性のない男はモテないぞ??)」


「生憎ですが僕は同僚の女性たちの間ではとってもモテるんですよ!?」


 ハン、自分で言う男はほぼモテない。


 私の愛しいヨナーリスなど「女性の相手は苦手でして……」などと言いながら城中の女官たちの視線を独り占めだったぞ!アタックしてきた女は良い感じの貴族に嫁がせて追い払ったがな!!


 さすが私。悋気を起こしてそんなとんでもない悪女になっていたのだと過去を振り返る。

 

 死神君はまだブツブツ文句を言っていたが、ふと窓の外に烏が止まった。


 深夜であるのに、烏はカァと鳴いてじっとこちらを見る。びくり、と死神君の体が震えた。死神のくせに烏が怖いのか。鳥アレルギー?


「……で、では、代償として、盗賊たちや、この村の住人すべての命をこの場で狩り獲るということで……」


 なぜかびっしりと冷や汗をかき、表情をこわばらせる死神君は震える声でぼそぼそと呟く。


「(あ、それはならぬ。村人たちにも手出し無用)」


「なんでです!?別に死んでも構わないでしょう!?」


「(それはそうだが、この村の連中は、きちんと報復してハンスくんご一家がとんでもなく幸せになり自分達はみじめで惨たらしく生き続けて貰わないと……)」


 死んだらそれでおしまいなんだぞ??と私は困った顔をする。


 この村はいずれ全滅するらしいので……それまで私が何をしても結果が全滅すればいいじゃないか……だめなのか……?


 私が悲しそうな表情を作ったので、びくり、と死神君の肩が揺れる。そしてゆっくりと烏の方を見て、頭を抱える。


「え……ぇぇ……結納の品………えぇぇ……いや、しかし……」


 何やら一人で勝手に葛藤している。


 早くしてほしい。ソニア痙攣してるんだけど。




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