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第00話 とある女性の死

 人間は欲深い生き物である。ふとその言葉が頭をよぎる。

 最初は誰が言ったかわからないが、多くの人がそれを言う。私は違うのではないかと思ったが、今ならその言葉を信じられる。

 私は騙された。私は裏切られた。信じていたのに。いや、私が勝手に信じていただけかもしれない。本当に信用できる人間なんて誰もいなかったのだ―――。



 私の名前は仙石佳織(せんごくかおり)。年齢は24歳で、とある大手の会社で事務員といて働いている。いわゆるOLというやつだ。

 仕事は何事もなく順調―――ではなく、最悪だった。仕事自体は難なくこなせたが、問題は私の上司だった。あいつは私に対して事あるごとにセクハラをしてくるセクハラ野郎だった。

 そのことを言及するとあいつは不機嫌になり、私を罵倒したり、仕事を増やしたり、無理矢理二人きりになろうとしたりなど嫌がらせをしてくる。

 辞めようかとも思ったが、せっかく苦労して大手に就職できたのに勿体ないと思い、今に至る。

 まだ耐えられるからだ。私には彼らがいたから耐えられた。


 私には親友と恋人がいた。恋人は付き合って5年の彼氏で名前は明人(あきと)、親友は幼少期からの同性の幼馴染で名前は(かなえ)

 2人とも私の心の支えだった。彼らは私の愚痴を聞いたりしてくれる。こんな私にも優しくしてくれるのだ。

 彼らさえいれば、この社会に耐えて生きていける、そう思っていた。



 ある日、明人から一件の連絡があった。「大事な話がある。今会いたい。場所は…」と伝言を残して。

 私は不思議に思いながらも、その日は特に用事もなかったので急いで指定された場所へと向かった。

 するとそこには明人と親友である叶もいた。叶が明人と一緒にいるのは不思議なことではなかった。

 私に彼氏ができた時に叶にも紹介したからだ。叶と明人は意気投合し、連絡先を交換し、連絡を取り合う仲だった。

 私は私の大切な存在同士仲良くなることはいい事だと思い、それを否定するどころか微笑ましいとさえ思っていた。この時までは。


 「話って何?」

と私は明人に大事な話を促した。


 「うん、そのことなんだけど…」


 明人はそう言い、チラリと叶の方に視線を移す。


 「…」

 叶は俯いたまま、黙っていた。


 私はそれを不思議に思う。何があったのだろう?叶に何か悪い事でもあったのだろうか?そうであれば力になりたい。

 私は叶には幼少期の頃から助けられたからだ。だからこそ何かあれば私のできる限りで助けになろうと思っていた。

 しかし、明人から発せられた次の言葉に私は凍り付く。


 「ごめん佳織、実は俺たち付き合ってたんだ。」

と申し訳なさそうな顔して言った。


 は?今なんて言った?付き合っている?叶と明人が?


 「い、いつから…?」


 私は泣きそうになりながらもそれを堪え、真顔でかすれた声で言う。


 「さ、3年前から…」


 その問いに答えたのは叶だった。


 「だから佳織ごめん。今日で別れよう。このままじゃいけないと思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて今になった。本当にごめん。」

と明人はまた申し訳なさそうな顔で言った。


 「そ、そうなんだ…わかった…」

 

 私は目の前の現実を理解しきれず、咄嗟にそう返事をしてしまった。自分でも何を言っているのか理解できていなかった。

 とにかくその場から一秒でも早く去りたかった。体が勝手に反応してしまっていた。


 「私たちこれからも親友だよね?」

と叶は目を潤ませる。


 「あたりまえじゃない。」


 私は笑顔を貼り付かせて、感情を殺し言った。言い返す勇気が出なくて。





 ある一室。そこには一人の女性がいた。部屋に明かりはついておらず、薄暗い。

 目の前には首吊りロープが垂れ下がっており、その下には椅子があった。

 女性はその椅子に足をかけ、自分の首にロープを潜らせる。そして…。

 

 ガタン!


 椅子が倒れたと同時に女性の首に全体重がかかる。


 「―――ッ!!」


 ロープが軋みギシギシと音を立てる。


 苦しい。苦しい。思わず涙が零れ落ちる。


 この世の中はクソだ。人間なんてクソだ。信じていた親友と恋人に裏切られた。3年も騙された。

 彼らは3年も何も言ってくれなかった。気付かなかった私はもっと間抜けだ。

 心が壊れそうだ。絶望しかない。信じていたものに裏切られるのはこんなにも辛いのか。


 薄れゆく意識の中、私は思う。


 もし次の人生があったのなら私はもう人を信じずに生きよう。


 そう誓おう。


 その考えを抱き、仙石佳織はこの世の生を終えた。





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