共通テスト前日に浪人確定の俺が異世界に行く事を告げられた
共通テスト前日、俺は焦っていた。
市販のテストパックをいくら解いてもろくな点数が出ないからだ。
あと10時間程度で何の対策ができる?
「古文と漢文は一週間で余裕」という受サロの書き込みに騙されたのが悪かった。
現実には、半分近くしか正答することができない。
どうすればいいんだ…
あまりの絶望に打ちひしがれ、全てを諦めて床についた。
驚くほどスムーズに眠りに落ちることができた。
そして、不思議な夢を見た。
目を覚ますと、周りは無機質な白い部屋だった。
特に目立ったものも見つからない。
ただ一点を除いては。
それは奇妙な容姿をした生物だった。
肌は全身真っ白。
つぶらな瞳に、小さい鼻、口元はニコニコと笑っている。
そして、唐突に言葉を投げかけてきた。
「大変みたいだね。もう諦めたら?」
突然の事態に頭が追いつかず、一切反応ができない。
「異世界って知ってる?君は4月1日に僕がいる世界に来ることが決まってるんだよね。」
「口から火を吹くドラゴン、体を蝕む極寒の世界、そして仲間達との愉快な宴。色々な体験が君を待ってる。よろしくね!」
ドラゴン…極寒の世界…?
全く意味がわからない。
「どういうことなんだ!説明しろ!」
そこまで言うと視界が突然歪んでいった。
目を覚ますとそこは自分の部屋だった。
共通テスト当日のはずなのだが、どうにもやる気が湧いてこない。
あまりにもリアルすぎる夢に心は囚われたままだ。
結局、身の入らないまま試験を受け結果は散々なものだった。
その後の一般入試もことごとく落ちた。
しかし、焦りは一切感じていなかった。
あの夢は現実になる。そう確信していたのだ。
時は驚くほど速く過ぎ、4月1日になった。
俺は両親と一緒に予備校の説明を受けにいった。
心は上の空で全く話は耳に入らなかった。
そんな浮かれた気持ちは一瞬で打ち砕かれた。
掲示板にそいつはいた。
全身は真っ白で、つぶらな瞳に小さい鼻。
口元はニコニコと笑っている。
夢でみたあの生物は予備校のキャラクターす○だいくんと全く同じ姿形をしていた。
嫌な予感がして周りを見渡した。
無精髭を生やしたドラゴンみたいな顔をした浪人生が煙草を吸っているのが見える。
説明を受けているこの場所は、凍えるほど冷房が効いていた。
上の階からは、浪人生が合コンをして騒ぐ音が聞こえる。
極め付けに職員からこう言われた。
「色々な体験が君を待ってるよ。1年間よろしくね!」