マックスコーヒー
劣等感。
今、俺の中のくすぶる感情に名前をつけるのだとしたら。
またバイトをクビになった。これで四度目だ。二十八歳無職。夢も希望も今の俺には何も無い。
飲みかけのマックスコーヒー。世の中もこのくらい甘ければ良いのに。
平日昼間の公園のベンチ。ただ座っているだけなのに、視線を感じる。なんて生き辛い世の中なんだ。
空にしたペットボトルをゴミ箱に投げ捨てる。ペットボトルの軌道はずれ、無様に地面に転がり落ちた。
居づらくなった俺は公園を後にする。行く当てなんてどこにも無かった。ただ、街からはじかれるように外へ外へと歩いて行った。
――結局、辿り着くのはここか。
俺は河川敷の芝生に寝転んだ。
ここに来たのは十年ぶりだった。あの頃はアイツと遊んだり野球やったり、楽しかったな。練習終わりに学校横の中華料理店行って、その後この河川敷で飽きるまで駄弁って。
――あの頃に戻れたら。
そこまで考えて俺は、自分が泣いていることに気付いた。そして、自分も人間らしいところが残っているんだと思って、少しほっとした。
星が見え始めた頃、俺は帰路についた。
途中に寄ったコンビニエンスストア。とりあえず飲み物コーナーに向かう。眼に映るのは缶ビール。
ここで酒に逃げられる俺であったなら、どれだけ気が楽だっただろう。俺はお茶だけをとってガラス戸を閉じた。
お茶と海苔弁の会計を済ませ、レジを後にする。コンビニを出ようとする俺は入ってくる子供ずれの男とすれ違った。スーツに身を包み、背丈は俺より少し高い位、肩幅はあの頃と変わらず広くて、あの頃以上に丸くなった表情をしている。
そう、アイツだった。
俺は目を合わせない、ただ横を通り過ぎるだけ。アイツはそんな俺のこと、気付いてすら無かった。
その場から逃げた。走って逃げ出した。アイツに今の俺を見られたく無かった。
家に着いた俺は弁当を冷蔵庫に入れるなり、布団に入った。もう何も考えたくなかった。だけどそのたびによぎるのはアイツの姿。あの頃以上に幸せそうなアイツ。もう、肩を並べることすら叶わない、アイツ。俺は今日二度目の涙を流した。
人は落ち込んでいるだけでは生きていけない。だからこうして心を無にして現実に立ち向かう。今日はバイト面接だった。面接官は俺をすごく難しい顔で見ていた。多分あそこは、受かってないと思う。
昨日同様、公園で呑むマックスコーヒー。世の中も俺に対してこのくらい甘ければ言うこと無いのに。
飲み干したそれをゴミ箱に投げる。またはじかれたペットボトル。それを拾い直してゴミ箱に力一杯投げ入れた