表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

青いリンゴ

 むかしむかし、自動車がまだ発明されてなくて、乗り物といっても馬車しかなかった頃の出来事。その頃の道路は土で出来ていたので、晴れた日でも埃っぽくて、雨が降った日にはすぐ泥んこになるし、あちこちに車輪の跡が残っていたりして、非常に不便でしたが、今よりも少しだけ時間がのんびりと過ぎていたのでした。

 ある晴れた日の昼下がり、村と村とを結ぶ道を一台の荷馬車が走っていました。その年はいつもよりも天気に恵まれていたので、たくさんのリンゴがとれました。そのため、荷台には山のように積まれたリンゴが満載でした。これから市場に売りに出かけるところなのです。

 茶色の馬にひかれていく荷馬車の運転席には、麦わら帽子を頭に載せたおじさんが一人で座っていました。おじさんは別に急いでいる訳でもなかったので、馬の好きなように走らせていました。その日はポカポカといい陽気でしたし、馬の蹄がパカパカなる音を聞いていると、ついつい眠くなり、いつの間にかウトウトしておりました。

 おじさんの隣には、彼の飼っていたネコが座っており、始めのうちは鼻の前を飛んでいる蝶を追い回すのに夢中だったのですが、こちらもいつの間にか丸くなって眠っていました。

 そうしてしばらく進んでいると、昨日降った雨の影響でしょうか、道の真ん中に大きなデコボコが出来ている場所がありました。そんな事に気がつかないで眠ったままのおじさんとネコと、荷台一杯のリンゴを載せた荷馬車は、車輪を取られてグラリと一揺れしたのです。幸運な事に、荷馬車は引っくり返る事もなかったのですが、さすがのおじさんもハッと目を覚まして、今度はしっかりと手綱を握りなおしたのでした。でもその時、荷台から一つのリンゴが転がり落ちていたのですが、おじさんはそれにはまったく気が付きませんでした。

 荷台から転がり落ちたリンゴは、そのまましばらく転がって行き、道から少し離れた場所まで来てようやく止まりました。

 そこへ、一匹のキツネやって来て、リンゴを食べてしまいました。おしまい。





 ・・・・・・ここで終わってしまうと困りますね。しょうがないので話はまだまだ続きます。

 それから長い年月が経ちました。土で出来ていた道路はやがてアスファルトに変わり、馬車は自動車に変身し、空には鳥と同じように飛行機が飛ぶようになりました。周りの景色もどんどん変わってしまい、いつの間にか、リンゴが転がり落ちたあの場所には、一本の立派な木が生えていました。それはすごく大きく育ち、毎年のようにたくさんのリンゴを実らせるのでした。その木に実るリンゴは青い色をしていましたが、とても美味しかったのです。

 そんな訳で、周りに住んでいる町の人たちは、そのリンゴの木をとても大切にしていました。毎日、かかさず水をやりましたし、誰かが勝手にリンゴを盗ってしまわないように、みんなで変わりばんこに見張ったりもしました。

 ある日、近くで大きな道路を造る計画が持ち上がりました。リンゴの木が生えている場所はちょうど、交差点になる予定でした。このままだと、工事の邪魔になってしまいます。

 最初は、リンゴの木を何処か別の場所に移そうというアイデアもありました。しかし、非常に大きな木だったので、それを移せるだけの広い場所がありませんでした。それに何より、リンゴの木を移すには大変なお金がかかりましたし、移した後に枯れてしまう可能性もあったのです。そのまま何もしなければ、リンゴの木は切られてしまっていたでしょう。でも、町の人たちは、本当にそのリンゴの木が好きだったので、“どうかリンゴの木は切らないで欲しい”と、偉い人にお願いしたのでした。

 そこで、リンゴの木が生えていた場所はロータリーにして、その周りに道路を作る事にしました。これならリンゴの木を切らなくても良かったのです。町の人たちも大喜びです。

 やがて、新しい道路が出来ました。もちろんその年もたくさんのリンゴが、木に実ったのですが、道路の真ん中に生えているのでみんなが自由にとりに行けません。なにより、子供たちがリンゴをとろうとして、自動車にぶつかりそうになった事も一度や二度ではありませんでした。町の人たちは、本当にそのリンゴの木が好きだったので、“どうかリンゴの木に安心して近づける方法を考えて欲しい”と、偉い人にお願いしたのでした。

 そこで、道路の上空に大きな回廊を作る事にして、みんなにはそこを歩いてもらう事にしました。これなら自動車にぶつかる心配はありません。折角なので、リンゴの木の周りにベンチも置いてみる事にしました。町の人たちも大喜びです。


 とある町の、とある交差点。信号機のないロータリーの真ん中に、今でもその大きなリンゴの木はあるはずです。青い葉っぱを茂らせて、青いリンゴがたくさん実っているのが見えるでしょう。そこに行けば誰でもきっと、美味しいリンゴが味わえるでしょうし、もしかしたら、リンゴを齧っているあなたと出会えるかもしれませんね、いつの日にか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ