02
「準備はいいか」
銀はそうガキに告げた。俺はのんびりとその扉が開くのを待つ。
「扉の先が表のルナティクスだ。私の執務室とつながっている。傍から見れば私の執務室から出てきたように見える」
「入ったのを見ていないのに出るのは見られるって大丈夫なの?」
「問題ない。執務室には転移魔法陣を備えてある。入室記録がないのに室内に人間がいるのは珍しくない。自由に出入りした構わないが、もちろんこの場所のことについては他言無用だ」
「うん。わかってる」
力強く頷くガキ。ちょっと心配なのがあれだな、だまされる系。こいつ馬鹿だし単純だし無駄に純粋だし。
「拷問されたって言わない!」
「いや、命の危機がある場合は言っても構わない。
私の登録にないものがこの扉を通れば、特殊なある部屋に招かれることになる。死ぬことも許さない生き地獄をそこに用意した。扉からの侵入者については、さほど問題はない」
息をのむガキ。苦笑いの狐。
確かにあの部屋は地獄だった。テストとしてクリアできるか試されたが…あれは無理だろうなぁ。
「ただ情報が伝わるのは好ましくはない。この場所は、あくまで架空でなければならない。夢を追って襲う侵略者がいたとしても、確実なものとして働く軍では、対応が異なる。
命をかけてまで黙秘する必要はないが、信頼のおける友人だからと伝えられては困る」
「わかった」
「次に、表では犯罪者から王族にいたるまでの様々な人間がいる。何が起こるかわからない。独りになるのは今は避けろ。だが、今日の目的はあくまで娯楽だ。存分に楽しむといい」
銀がそういって締めくくり、重々しい扉を開いた。そこには光があるだけで景色はない。
ガキがごくりと唾を飲み込む。
めんどくさいから引っ掴んで投げいれた。
「ちょ!ゼロ!?」
後を追って狐も飛び込んだ。
で、扉を閉める。
「……何だ」
「あの絵の保持者。殺した奴は誰だ」
「名もない暗殺者だ。手法は毒殺。しかしその当人も死亡が確認されている。
死因は病死。死ぬ間際の仕事だったのだろうと想定されるが、依頼主も依頼内容・時期も不明。
なにせ絵の所有者も暗殺者も、自宅まで火災によって全焼。現在は欠片も残っていない。念の入れ方が他とは明らかに異なっている」
あの絵が外に知られた瞬間にそれが起きたということか。情報が伝わるまでが早い。
「お前どうやって絵を?」
「盗難」
盗まれたと知られ、殺された持ち主。盗まれたことを他言して、知ったやつが情報を流した。または同居している人間がそうしたか、だ。
だが、情報が早すぎる。盗難したことが発覚してから、この仕事に適しすぎている暗殺者が動くまでが。
「肉体の状態から死亡日を定めようとしたが、肉体の損壊がひどく不可能だったが、おそらくは10日ほどだろう。」
10日前後。
盗難に気づいて、それをどうにかして周りが知り、不都合のある誰かが、死に間際の暗殺者に依頼して始末。それまでに10日しか経過していない。
つーかそれだけのことができるのに、何故もっと早く所有者を殺して、厳密に保管したりしなかった?それかこの絵事態を処分するか…。
この絵事態に問題があるより、所有者から情報がわたるのを恐れたか。
「意味わかんねぇ」
俺のつぶやきに即座に銀の口が開く。
「だが、わかることもある。この絵は単なる絵画ではなく、また危険性を伴うもの。そして、これの背後には巨大な組織が動いているということだ。お前は、どういう形かは不明だが、それに関わっている可能性がある」
「でかい組織なのは昔からわかってただろ」
「正直予想以上だ。ここまで行動速度や情報の伝達網が揃っているなら、それだけの人員もいる。同時に軍事力もあるということだ。銀の連合よりも上かもしれん」
まぁ、連合はどうせ寄せ集め集団だしな。
役に立たないやつはいないが、どいつもこいつも個人特化すぎる。
銀は動けない自分の代わりの手足として、利用できるだろうが、俺としては味方だとも思っていない。俺を殺せと依頼されれば受けるような奴ばっかりだし。
「ゼロ、勝手な行動はするなよ」
「俺はお前を待つつもりなんてねぇ」
俺は俺で好きにやる。
銀とは協力関係ではあるが、俺の目的を任せるつもりはない。
さて、どこから手をつけるかね。
俺は扉をくぐった。




