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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第二章 外の世界
9/335

01




「見つけたぜ、兄貴。奴はアガド牢獄にいる」


「アガド牢獄?また妙な場所に…何する気だ、あいつ」


「さぁ。どうする?いく?」


「当然だ。早く出発しないと逃げられるぞ」


「ラジャー。あいつにも伝えておいて」


「そういうのはおめぇの役目だろ」


「兄貴の方が早いじゃねぇか」


「………しょうがねぇなあ。わかったから、早いとこ頼むぞ」


「任せろ。仕事だからな」


「あぁ。悪魔狩りの始まりだ」




・・・・・・・・・・・・




わたしは脱獄した。


ついに叶えた。本当に、夢のような出来事だ。しかも追っ手はみんな倒して、空を飛んでの華麗な脱出。


………とはいかなかったけど。



「ゼ、さん、もうちょっ、ゆっ…」


「あ? 何言ってんのかわかんねぇよ」


「ゆっくり飛んでぇぇぇえ!!!!」



門を壊した先にすぐに外の世界はなくて、ゼロさんは狭い通路を蛇のように進んだ。歩いて進むこともできるんだけど、急ぐということで。


上だと思ったら下で、顔のすれすれに岩が通りすぎて、罠が発動して矢が飛んで、右に左にぐわんぐわんと揺さぶられて……。


き、キモチワルイ…。



「我慢しろ。後ろ、聞こえるだろ?」


「ふえ?」


「耳まで馬鹿になったのかよ。ほら」



ゼロさんが、ふっと空中で停止すると、馬鹿になってた耳が徐々に性能を取り戻し、


ゴゴゴゴゴゴ


地響きのような音が聞こえてきた。



「……何の音?」


「水」


「……なんで?」


「そりゃ逃げたやつを始末するために」


「……まずい?」


「ここはもともと海底だからな。さすがに足じゃ追い付かれると思ったんだが……」



ゼロさんはニヤリと意地悪く笑った。



「どうする?ゆっくり散歩でもするか?」


「ごめん!早く飛んで!!」



近づいてくる音を感じ、わたしはゼロさんの胸にしがみついた。ゼロさんは、わざとゆーーっくり飛んで、わたしが叫ぶのを待ってから急に速度をあげた。風の音で耳はまた馬鹿になって、吐きそうになるくらい気持ち悪いけど、必死でしがみついた。


目をきゅっと閉じて、口も固く結んで、感覚がなくなるくらい手に力を込めて。


早く終われ 早く終われ 早く終われ。


そう思いながら必死で頑張った。



「……おい、きつい。放せって」



なにをおっしゃる。

わたしは黙って首をふった。



「それなら指の骨を折るか、肩の関節でも外して……」


「は、放します!!」


「は?おい!」


「あれ?」



咄嗟に放した手は体と一緒に放り出されて、やっと開いた目には輝く赤い炎が写った。


燃えてる。


広い広い天井が、眩しく燃えてる。



「ふ、わ………」



言葉がでなかった。真っ赤な色はわたしの心を掴んで、一緒に燃やしていく。

落下する怖さもなく、わたしは唖然と赤く輝くそれを見ていた。


これが、空。


これが、外。



「急に放すな。死ぬ気かよ」



いつの間にかゼロさんに受け止められ、わたしは腕の中でまだ空を眺めていた。


広い。

手を広げても絶対に届かない。


限りがなくて、広くて、自由で、眩しくて、美しくて……。



「す、すごい…」



それしか言葉にできなかった。ゼロさんが苦笑する。



「夕焼けだ。太陽が沈んで、ちょうど夜に変わる前の時間だ。すぐに暗くなる」


「夕焼け……」


「いつでも見れるんだから、そろそろ目、閉じろ」


「う、うん」



まばたきを忘れていたらしく、カラカラになった目を閉じると涙が溢れた。その隙にとゼロさんは空を駆け、こぼれた涙が空へ消える。



「ゼロさん」


「あ?」


「空って、すごいね」


「そうかよ。じゃ次は下、見てみろ。あれが海だ」



首を回して言われた通りに下を見る。


キラキラ キラキラ


水に反射して、光が浮いている。まるで結晶が流れているようだ。その表面の綺麗さとは裏腹に、奥の方は暗くて何も見えない。底の知れないかんじがなんだか怖かった。


そしてそれよりも。



「水がこんなにたくさん!?飲める?ゼロさんこれ飲める?」


「そのままじゃ無理だな。アガドじゃ水もねぇのかよ」


「コケについてる水とか、天井から垂れてる滴とかくらいかな。アガドも飲めない水は多いんだけど…海はこんなに水があっても飲めないなんて、なんか酷い」


「飲み水に困る世界じゃねぇから、こっちは」


「そっか…魔法もあるもんね」



空と海。

大きくて広い二つに挟まれたわたしたちは、その間を貫くように飛んだ。すごく自由で、頬を撫でる風が気持ちいい。



「ゼロさん。助けてくれてありがとう。ゼロさんのお陰で、すごく自由だよ」



ゼロさんの赤色の目が少しだけ見開く。

やっぱり綺麗な色だ。今の空の色みたい。


夜が近い、夕焼けの色。



「……は」



ゼロさんは短い息を吐く。そして、腕の力をだらんと抜いた。



「え?」



わたしを抱えてくれてる手を。



「うぎゃぁぁぁあ!!なんで!ちょ、死ぬ!落ちる!」


「うっせぇ、くそガキ!ありがとう、じゃねぇよ!お前に会わなけりゃ力を使うことなく潜入調査で終わってたんだ!こんな太陽に晒されることもなくな!あのタイミングで脱獄なんざすんなよ、馬鹿が!」


「そんなこと言ったってわかんないもん!今日を脱獄する日に決めたのはシルクだもん!」


「知るか!魚の餌にでもなっちまえ!」


「いやだぁぁぁああ!!」



と、ぎゃーぎゃと暴れて、そんなこんなで地上に降り立った。


初めての地上は、硬い岩で裸足から伝わる感じはアガドの時とあまり変わらず、ひんやりと冷たくてゴツゴツとしている。凸凹が多くてちょっと痛い。


それよりも、だ。



「なんか疲れた感じがするよ?ゼロさん。大丈夫?」



ゼロさんは地上に降りるやいなや、翼をさわぁと消して、今は岩影に隠れてぐだっとしている。



「疲れてねぇよ。アレのせいだ」



ゼロさんはくっと顎で天を指した。


太陽だ。



「さっきもそんなかんじのこと言ってたね。太陽、もう見えないのにダメなの?」


「日光だけで最悪」


「ティナのせい?」


「そ」



もう翼も爪もなくて普通の人と何の変わりもないのに影響があるとは、やっぱりティナを持つということは大変なことだ。


失われた一族の影響も出て、人としてのなにかを失う。


ゼロさんは何を失ったのだろう?



「……」



聞いても詮索するなっていわれるだろうな。



「ゼロさんはどうして、その……、見た目が変わってないの?」


「特別だから」



そう答えられるとなんも言えない。



「安心しろ。俺以外に()()が出来るやつはいねぇだろうから」



今のゼロさんの姿をまじまじと眺める。


短い髪は黒と茶色が混ざったような色合いで、細い眉の間には皺が寄っている。鋭い切れ長の目の中は濃い紫色で、底が見えない深い色をしていた。


身長は、180センチはあるかな。すらりとしているけど、やせ細った感じには全く見えない。引き締まった綺麗な体つきだ。


気だるげだけど油断がなくて、怖いけれどかっこよくて、なんだかすごく印象に残る人だ。犯罪者というなら、印象に残るって良くないことだろうけども。



「じゃ、あれはなに?」



わたしは空を指した。

雲を貫き、蜃気楼の中にあるようなアレ。



「世界樹。神ノ木って云われてる」


「あぁ…。あの……」



言い伝えではそこには神が住んでおり、その神は人に魔力を与えた。魔法を使うための元となるマナもあの木が根元で、不思議なことにあの木はどこにいても見ることができるらしい。わたしはぼんやりとその樹を眺めた。



「昔にあった種族戦争って、魔法を使った人間がみんな滅ぼして勝ったんだよね?」


「まぁそうだな」


「ってことは神様のせいで、他の種族たちは滅んじゃったのか」



そうだとしたら神様はひどい。人間のことをわかってないし、後先考えてなかったんじゃないだろうか。さ迷う子羊を救うタイプではない。牢獄にいる子供を助けてくれるなんてことはしないわけだ。


そう考えていたら、ゼロさんがまたクックと笑っていた。



「面白ぇな。教会の連中が聞いたらなんて言うか」


「だって、わたしを助けてくれたのは神様じゃなくて悪魔だもん」



助けてくれた普通じゃない人間が、悪魔のティナ持ちだったんだもん。

神様の要素なんて欠片もない人だったんだもん。



「あとね、すごく気になってたんだけど…」


「あ?」



吸いきった煙草はポイと投げられ、瞬時に消えた。いや、破壊されたというのが正しいのかな。


聞かないといけない。


煙草は命よりも高値のもの。それをひょいひょい吸うゼロさんは、あの恐ろしいといわれる貴族なのか。

だとすればアガドから脱出できたとしても、違う所に閉じ込められたり、ひどい方法で殺されたりするかもしれない。


その問いを口に出そうとした瞬間だった。


うなじが逆立つような、ざわりとした感覚。

体温が急激に冷えて心臓が高鳴った。


これは、あぶない。そう直感した。

叫ぶ時間さえ惜しく、わたしは手のひらをめいいっぱい広げてゼロさんの前に立ちふさがった。


轟音と閃光。


激しい衝撃に声も出ず、わたしはそのまま硬い岩の大地に体を預けた。





少しだけ連投します!


ブクマなどなど宜しくお願いします!



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