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ルナにはこう持ちかけた。
「せっかくだから、ゼロさんのこと、色々聞いちゃおっか」
ルナはどうしてかわからないけど、ゼロさんに好意を持っている。なのに、全くゼロさんのことを知らない。二人は協力関係よりも敵対していることの方が多いからだ。
案の定、ルナはのりのりだった。
モグラのように、洞窟を掘り返して脱出し、わたしを背負って空を飛んでいる。
華奢ってほどではないにしろ、軽々と人一人を背負って空を飛ぶとは、ルナは見た目以上に力がある。まぁティナ持ちだから当然なんだけど。
それにいつもはゼロさんに担がれたり抱えられたりしていたけど、背負われると安定感が違う。乗り心地がいい。
「こら!妾を乗り物扱いするな!」
そうしてルナの力の元、このゲームが始まったのだけども…。
いやー、ルナの力は自由度が違う。自分の血を使って何でもできるって素晴らしい。あまり使いすぎると貧血になるだろうけど。
「それで。イーリスよ。次は何のお題をだそうか」
こんな感じで現在は元気だ。
「そうだね…次は歌でも歌ってもらっちゃおうか!」
「なるほど!そなたは頭がいいな!イーリス!」
「しー!静かに!聞こえちゃう」
わたしたちは、ルナの血の力で隠れているけど、声までは防ぐことができない。血で囲むことで、視覚からは姿を消しているけど、存在が消えているわけじゃないからだ。
ということで、しゃべるときは極力抑えて話している。
「こんなにも楽しいのは久しぶりだ!ルシファのことをいろいろと知り、迷路のように道を作り…。妾の力はこんなにも面白く使えるのだな!」
「みんなは遊び方を知らないんだね。何もないのに遊ぶことにおいてはプロだよ、わたしは」
「なに!?何もないのに遊ぶのか!妾にはできぬことだ…。師匠と呼ばせてくれ!」
「ふふふふふ。よいぞよいぞ。さて、それではルナよ。ゼロさんへ歌えと指示を出すがよい」
「うむ!任せろ!」
うきうきと指を動かし、字を書いていくルナ。この書いている瞬間を見られたらその字の傍にいるから見つかっちゃうんだけど、何故か今日はゼロさんの飛ぶスピードが遅い。
「よし!書けたぞ!」
「あとは待つだけだね」
最前席で主役の登場を待つ。
待つ。
待つ。
待って、待って、待って…。
待つ。
「…来ないぞ」
「こないね」
「まさか、あやつめ道に迷いおったか?」
空で道に迷うって、ちょっと意味がわからない。
「それはないと思う」
「ううむ。ルシファは賢いからの…。ん!?ちょっと待て」
ルナがびくんと激しく頭を動かす。慌ててしがみつく腕に力をこめた。
「危ないな!ど、どうしたの?」
「なにか聞こえた」
「なにが?」
「わからぬ。こっちじゃ!」
急に飛び出すルナ。
覚悟していたから吹き飛ばされることはなかったけど、ゼロさんに匹敵するほどのスピード。一瞬で息ができなくなり、急いで顔を伏せた。
また耳が馬鹿になる…と思いきや、それをさせぬと音が流れる。
綺麗な澄んだ声ではなく、力強い。高音はかすれ、低音は響く。
感動してぼろぼろと涙するようなものじゃなく、ぞっとするほど惹きつけ、身を震わせ二度と忘れないだろう音。
「これは、ルシファ、か?」
ルナの震える声さえも、かき消されている。それまでに圧倒的な存在感を放っていた。
「ルナ、もっと、近くに…」
「うぬ。急ぐとしよう!」
ルナがスピードを上げる。
音が近づく。胸が抉られ、全身が持っていかれる。これがゼロさんの暴力的な歌。
人を惹きつけてやまない悪魔の音。
鳥肌が止まらない。ゾクゾクがやまない。
もっと聞きたい。
もっと。もっと。もっともっともっと!
「だからダメだっつったろ」
その一言と一緒に悪魔の拳が落ちてきた。




