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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
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15




鈴が鳴った。


来客。月の道を来たということは十中八九奴だろう。


予想に反して、随分と早い到着だ。


何をそんなにも急いでいるのか。気にならないこともないが、それよりも別の気配が感じる。万に一つもない可能性とはいえ、奴が捕えられ、ここに連れてこられた可能性も念頭にいれる必要があるだろう。



「警護を頼む」



私は上着を羽織り、来訪者を出向かえるため戸をくぐった。








転移というのは気持ちが悪いもので地面に足がついたときは、思わず力が抜けた。


視界がぼんやりするけど、ここは海岸なんだと思う。海の音がするし、地面に触れた手は砂に埋まった。



「久しいな」



その落ち着いた低い声。何度も聞いた声だった。



「ああ」



ぶっきらぼうに答えるゼロさんの視線の先には人がいる。人…とはいっても、現実味のない人だった。

現実味がないほどに、美しい男の人。


白銀の髪を結い、色白の透き通った肌に、灰色で切れ長の目。纏う服も模様を描いた美しい着物で、女性に見違えるほどに綺麗だ。男性とわかるけど、女性にも見える中性的な人。

彼が、銀さんだ。



「ゼロ」



白く、細い指が伸びる。


その瞬間、爆発音が響いたと思ったらゼロさんが消えていた。



「……え?」



ザバーーーーンッッ


波しぶきがあがった。


浜辺だから深くはないらしく、ゼロさんは座ったまま濡れた髪をかきあげ、ぎらつく目で睨んでいた。



「なんだ、その有り様は。あれほど鎖を切るなといったはずだ」



氷のような冷ややかな声が響く。怒っているのかと思えても、表情に変化はなく無表情。少しだけ眉をひそめているだけだ。



「ルシファは、妾が!妾のせいでな!」


「お前は自分のしたことを忘れたか?」



その一言で、ルナまで海まで飛んでいく。


銀さんはそこから一歩も動いておらず、指をすっと動かしただけだ。それだけで、最強のティナ使いと最強のティナ堕ちが一瞬でいなくなってしまった。



「それで、お前がアビスシードか」


「ふ、ふぁい!!」


「よく来た。命のみは補償しよう」



のみってなに!?この人、めっちゃ怖い!!



「おい、そいつには手出すなよ」



いつの間にかゼロさんが後ろにいた。大きな手をぽんと置かれ、まるで心配するなと言っているようだった。



「お前が人間に執着するとは珍しい。何かあったのか」


「そんなことより、久しぶりに会った奴に手荒い歓迎だな、銀。俺に敵対したと受け取っていいんだろうな」


「それは受け取り手次第。私の言葉に流されるお前ではないだろう」


「へえ?今から暴れようが問題ないってことか?」


「私は相応の対応をするだけ。どう対応するかはお前次第だ。ゼロ」


「お前の知っての通り、俺は俺のやりたいようにやるだけだ」



…なにこの二人。仲良しじゃないの?仲間じゃないの?


熊おじさんとの方が、ゼロさん柔らかかった気がするよ?


氷と刃のぶつかり合いみたいだ。


こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。



「…相変わらずだな」


「お前もな。それより、吹っ飛ばすのはいいが海はやめろ。濡れるのは好きじゃねぇ」


「いつもの便利な破壊を使えば問題ないだろう。お前の場合は」



……ん?



「イーリスよ。安心せよ。この二人はこれがいつも通り。不仲ではない」



ルナの言うとおりのようで気付けば二人の間に険悪差はなく、小さく微笑む銀さんといつも通りニヤリとゆがめるゼロさんだった。


なんだろう。この………拳で語るとかいうやつのレベル高いバージョンだと思えばいいんだろうか。

ゼロさんのパンチをいい音をたてて受けている。わたし、ゼロさんのパンチ見えませんけど。



「…制限を切ったにしては、安定しているな」


「まぁな。追々話す」


「だが、侵食が進んだのも事実だ。力の上昇を感じる。ゼロ、鎖は切るな。切るくらいなら逃げろ」


「俺の負けず嫌い知ってるだろうが」



軽く会話しながら、やる手の動きじゃない。この二人なりの握手なのか知らないけど…拳で語りすぎじゃなかろうか?


そして唐突におわった打ち合い。合図はクロちゃんの鳴き声だった。



「ま。これで仕事は終わりだ。こいつの安全くらいは保障しろよ」



ゼロさんが煙草を取り出しながら、わたしをぽんと銀さんの前に出す。近くでみると本当に綺麗だ。綺麗なんだけど、さっきの氷属性が離れない。


こちらの考えていることがわかるのか、銀さんは優しく口を緩めた。



「不安に思わせて済まなかった。改めて歓迎しよう、アビスシード。


ここはルナティクス。人間のルールに縛られない外れの辺境地だ。ここには危害を加える者は誰もいない。今はゆっくりと体を休めろ」



こうしてわたしは、目的地のルナティクスにたどり着いた。


それは長い旅の終わりで、ゼロさんの仕事の終わりでもある。


そして、わたしがこの世界で生きていくためのはじまりだった。




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