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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
66/354

08




扉をあけると、そこは暗闇だった。


一歩先も見えない闇に、熊おじさんもヤマトも怯む。恐れなかったのはルナとわたしだけだった。



「うむ」



ルナが手をいれる。瞬間でその手は壊れた。



「抑えが効いておらんな。ティナが暴走しておる。もう元には戻らん。

それでも…行くのだな。イーリス」



ルナは痛めた手を振り、それを血で治しながら言った。わたしの返答は変わらない。



「うん」



わたしはふらつく体を部屋の中へと運んだ。痛いくらいの殺意で勝手に体に震えが走る。


ヴァンパイアのルナがそうだったんだから、わたしなんて粉屑になるだろう。


そんなことを頭の隅で考えてしまう。


でも、痛みはない。ルナがその力ですべて防いでくれている。



「良いか。そなたが失敗すれば、即座に妾がルシファの首を獲る。

その際、そなたごと貫くことになるやもしれん。よいな」


「うん」


「…うんしか言えんのか、余裕がないの」


「うん」



余裕?そんなもの一つもなかった。


話のあと、みんなのもとへ行ったわたしは、全員のありったけの魔法をこの体に受けた。


もちろん大反対だったし、絶対にやらないと豪語している人もいたけど、何とか説得して、何とか頼み込んで、わたしはこの体に大量の魔力を手に入れた。


熊おじさん曰く、「今のありんこなら、ゼロを超えるかもしれんぞ!」とのこと。


それでもわたしの核はちっちゃくて、こんな量に耐えきれるわけもなくて、今も絶賛、核の破裂現象みたいになっている。排出しないくせに体にめぐる魔力が多すぎるのだ。


そんな現象に名前はないから、何とも言えないけど、状態は核が破裂しそうなときに似ている。


こんな状態でうまくできるのか?


いや、考えても仕方がない。やるしかないし、やらなきゃ終わりだ。



「イーリス。止まれ。それ以上は妾の力では耐えれん」



部屋にあった家具とかは一切なくなっていて、瓦礫の山と化していた。


そして、その先に目を凝らすとゼロさんはいた。


足はぐちゃぐちゃだし、片腕はない。残った片方の腕は、地面に剣で突き刺して、壁を背にして血の海を作っている。



「死のうとしたか、ルシファーよ。死にきれずに四肢を破壊したのか」



わたしは首を振った。



「止められなくなった時に、自分を行かせないようにしたんだよ」



ゼロさんは言った。自分の力で作った剣は魔力に戻すことはできても、破壊はできないって。


ああしておけば、理性のないティナではもがくことしかできないはずだ。


どこまで、どこまで頑張るんだろう。死んだ方が楽なのに、どこまで…。



「ルナ。行ってくる。構えてて」


「お、う、うむ。カーバンクル、そなたはこっちじゃ」



真っ暗な道を歩く。

ふらつくし、瓦礫はあるし、床もぼろぼろだ。

それでも闇はわたしを避けるかのように道を作り、傷つけたり破壊したりはしなかった。涙を堪えてゆっくりと進み、やがてたどり着く。



「ゼロさん」



生きているようには見えない。でも、死んでいるとも思えない。


きっと声は聞こえないし、目も見えないだろう。だから心で何度も呼んだ。不思議と、ゼロさんはいつもそれを聞いてくれるから。



「ゼロさん」



指先がぴくりと動く。


うっすらと見えていない目が開き、虚ろな目は紫ではなく、綺麗な蒼色をしていた。


息を飲むほど透き通った色に思わず声が止まる。


死に近く、魔力も覇力も宿らない目の色。きっとゼロさん本来の目の色だ。



「ゼロさん」



どこまでも、空みたいな人だと思った。気高くて大きく、強くて美しい。それに合わせたように空色の目をした人。わたしが外に出て、一番に感動し涙を流した存在のような人だ。


だから、こんな鎖なんて要らない。



「嫌だ。お願いだから、死なないで」



冷たいゼロさんの体に触れた。大地に花を咲かせるように、芽吹くように、送り届ける。


植物を操るということは、小さな芽に力を与えて、成長を促すこと。それを導くから結果的に操ることが出来ていた。


でも、何もない海の上に花を咲かせることはできず、他の炎や水も作り出せない。


わたしは植物を操る力を持つんじゃない。

炎も、水も、何も操ることはできない。

全部の属性なんて持ってない。


できたのは、存在するものに力を貸すだけ。だからわたしの力は、力を、魔力を、与えることだ。


心から願い、身に余るほどの魔力を全てゼロさんに注ぐ。


すると、だんだんと、ゼロさんの目に光が宿り、いつもの深い暁の色へ変わっていた。


とくん、とくん、と暖かい鼓動が耳に響く。



「お前…?」


「へへへ」



ゼロさんの乾いた口からこぼれた言葉に、笑みで返す。わたしができるのはここまで。


魔力を与えることはできても、わたしは治すことはできないんだから。


力が抜けて崩れる体を、ぐっとゼロさんの腕が支える。


強すぎる力に痛がるほどの元気もなくて、わたしはされるがままゼロさんを見ていた。赤い眼には力が宿り、ゼロさんはいつものように口の端をつり上げた。



「死ぬなよ」


「ふへへ…りょーかいしました」



朦朧とする意識の中、ゼロさんが自分を作り直す。そんな音を静かに聞いた。


その音が鳴りやむ前に意識が途切れた。


ゼロさんの落ち着いた心音を聞きながら。





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