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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
61/354

03




「哀れよの、ルシファ」



とめどなく、血が滴り落ちる。体がきしみ、眼痛と頭痛がひどい。明らかに魔力の使い過ぎだ。


そりゃそうだ。戦闘開始前から魔力不足だ。まぁとっくに船は出航したことだし、時間稼ぎは成功。及第点だと納得しよう。




「それだけの力がありながら、こうして妾に傷ひとつつけることができんとは。妾にはそなたのように、魔力を見る目はないが…昔のような覇気がないことはわかる。

近づくもの全てを破壊尽くしていたそなたとは思えんな」


「…」


「その世界を飲み込むほどの魔力が全て覇力へと変わり、絶大な力を手にしたときどれだけ快感か…。そなたに教えてやりたいものだ。そなたは抑えて封じ込めて、我慢しすぎる」


「ごちゃごちゃうるせえ」



ぎしっと体の骨にヒビが入る。

ヴァンパイアの能力は血液の操作。己の血液であれば、どうにでもできる。指先から垂れるほどの血でも、俺の体を馬鹿力で締め上げることができるらしい。そんなことをしなくても、逃げる体力はとうにねぇがな。



「まぁ、良い。これでそなたは妾の物だ。誰にも渡しはしない」


「…お前が欲しいのは、俺か?それとも悪魔(ティナ)か?」


「どちらもが混ざったもの。妾はな、そなたに妾のようになってほしいのだよ。

人の弱さをティナの強さで埋め、ティナの脆さを人の意思で保つ。いいとこどりの共存関係だぞ?」


「で。結果的に壊れたか。前よりひどいぞ」


「妾は壊れてはおらん。人間であったのに、人の世を崩そうとしているが、それはティナの総意だ。

ああ、だが少しさみしがりか。妾はそなたが欲しくてたまらぬからの。

…それにしてもなぜこんなにも悲しく冷たくさみしいのだろうか。妾は全てを手に入れることができるのに、欲しくて欲しくてたまらない。欲しいのにこうしてボロボロにしている。なのに嫌ではない。よくわからんの」


「知るかよ」



だから壊れてるって言ってんだ。


ティナに呑まれているのに、人を殺すことより俺を求めて。

人間が残っているのに、ティナに呑まれたことに抵抗がない。


矛盾している。

なにがいいとこどりの共存関係だ。ツギハギだらけのガラクタじゃねぇか。



「この気持ちは妾にもわからんが、それよりもわからんのは、そなただ!」



力と力がぶつかる。俺の腕が砕け、すかさず間合いをつめるヴァンパイア。


迎え撃つつもりが動かない。地面に落ちていた血が背中から手足を貫いた。



「っっっ!!」


「妾はティナとなり、力のままに父と母を殺し、すぐに夜の女王となった。

だがそなたはティナとなって人々に憎まれ疎まれ、それでもなお人への復讐を望まんのか?」


「そんなもの、くだらねぇ!」


「くだらないわけはない。ティナである以上、人への恨みは消えることはない。何故そなたはそれに対して、そこまで頑なに拒むのだ!」


「答える、義理はねぇよ!」



体を縛る血液を破壊し、骨が砕けた拳で思いっきり殴りつける。予定通りに、当たる個所を血液にして逃れたヴァンパイアに破壊の闇を放った。



「本当に、弱くなってしまったのか?そんなものが、本気なのか?」



ザスッ


背中に痛みが走る。息が一瞬止まった。

あー、くそ。魔力がなくなったやつはほんと読みずらい。



「急所ははずしたみたいだが、妾の血で作った剣に貫かれる。その意味、わかるよの?」



ヴァンパイアは容赦なく、自分の血を俺へと注ぐ。体内に凶器が流し込まれるのはわかっても、これを破壊していく余裕がない。ただ痛みにこらえ、致命傷の治療に魔力を回す。

そうでもしないと、くそ、血を流しすぎたか。意識がとぶ。



「弱くなったのは、人間のせいか?あの人間を殺せば、そなたは元のそなたに戻るのか?妾と同じように、生きてくれるのか?」



あの人間。

誰を意味しているのか。朦朧とする意識のなかでもわかった。



「…まだそんなに離れてない」



海を眺めながら、蝙蝠の翼を広げるヴァンパイアを見て、俺は笑った。

体中に這いまわる血に、内臓や骨を潰される音を聞きながら、死にそうだと感じて、死ぬわけにはいかないと思った。


あんなガキとの約束も守れないなんて、そんなことあってたまるか。


というかな、俺は気がみじけぇんだ。さっきから弱いだのなんだの……俺は黙っていられる性質(たち)じゃねぇよ。



「…くそが。銀のこともある、から、やめときてやったのに……そこまで、煽ったんだ。後悔すんなよ」



制限を、解く。


ティナの力が、覇力が、体を浸透し、害する吸血鬼の血を破壊する。駆け巡る力が体外へあふれ出し、体が爆発するような激痛が走った。


解放される快感、過ぎた力で壊れる体、俺の意思をも喰われる感覚。



「そなた…ずっと、抑えて、生きて…それが本来の姿なのか」



ルナの赤い目が見開かれている。


「ああ、そうだ」なんて簡単な言葉をいう余裕もない。この破壊衝動に…押しつぶされそうだ。


今すぐに、俺は…。



「く、ククク」



力を放つ。ヴァンパイアは即座に回避し、空を飛んで遠く俺との距離を取った。


追いはしない。そんな面倒なことを何故俺がしなければならない?



「うぐ!?」



空中のヴァンパイアの動きを止め、地面へと叩きつけた。その体は跳ねることもなく地面へと埋まり、飛び出した血の刃は本来の液体に戻って地面を染めた。



「俺が、お前みたいに、なれるわけがない」




頭に鳴り響くのは同族を殺された恨みでもない。独りにされた寂しさでも、怒りでもない。


人間?くだらねぇな。



「神の創りしすべてを破壊する。人もティナも世界そのものも」



目の前のティナに闇を落とす。瞬時に仰け反って避けられるが、それは分かっている。予定通りに魔剣で首を切り裂いた。


赤が散る。 音が鳴る。


今なら見える。お前が何をしようとしているのかも。


まだだ。


体中を血の槍で貫かれるが、そんな痛み、なにも感じない。


俺を殺しにきている悪魔の狂気に比べればどうってことない。


そういえば、さっき背中を串刺しにしてくれたよな?



「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」



やっと悲鳴らしい悲鳴が響く。


ティナは体が無駄に頑丈だ。内側を破壊されても、すぐに死ぬことはない。



「はは、ははははは!これが、ルシファーたる力!良い、良いぞ!妾とともに歩く力として、これ以上のものはあるまい!」



爆発的に身体能力をあげたのか、ヴァンパイアは飛びのいて血の刃を放つ。そして、指先から血は固まっていき、ヴァンパイアの爪が足元に届くほどに伸びた。

まるで10の剣が迫るようだが、たかが10本だ。何千何万の殺意の中で生きてきた俺には大した数じゃない。



「楽しもうではないか、闇の帝王よ!ティナとして生きる吸血鬼と人間として生きる悪魔!

夜の支配者として、どちらが勝っているか!確かめようではないか!!」




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