↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
59/355

01




歌が聞こえる。



宵闇の 月が美し


夜の星よ この手に宿れ


夜は我が物 天は我が物


漆の翼も紅の眼も惑わしの声も


闇のすべては我が物



「そなたの全ては我の物。我の全てはそなたのもの。のう、ルシファー」



美しい女性だ。

絶世の女性は誰だと聞かれたらこの人を指すと思う。それくらい、怖いくらいに綺麗だった。


月光を受けて金色に輝く鮮やかな赤い髪、長い睫毛に伏せられた赤い瞳。


透き通るほど白い肌を除けば、厚い唇も長い指先の爪も真っ赤。


背はすらりと高く、体つきも美しく、細すぎても太ってもいない。


肖像画のような、彫刻のような、ある意味現実離れした美しさだった。

そんな人がただの一撃で、あの魔物を倒したというのだから信じられない。



「全員逃げろ」



そんな女性を前にして、声色ひとつ変えずにゼロさんは言う。

いつもよりも鋭さの増した目つき。頬には汗が伝った



「あれの目当ては俺だ」



びりっと空気が変わった。

ゼロさんの体を闇がまとい、背に大翼が広がる。

女の人と同じ赤い目は女性をとらえて離さない。

表情を見て、いつもと違うのがわかる。無理をしているんだ。



「い、いやだよ。ゼロさんを置いてにげるなんて」


「熊。頼んだ。抱えていけ。クロもガキについてろ」


「ワシぁいいが、お前あんな美女に声かけられてるってのになんて面してん…」



ばしゃあ。


鮮血が散った。わたしの前にはゼロさんがいて、ゼロさんの前にはあの女の人がいた。血はゼロさんの右腕から滴っている。



「ルシファ。無視はひどい。こんなにも焦がれているというのに。その娘のせい?」



まったく見えなかった。こんなに近くにいるのに、だ。


それは熊おじさんも一緒だったようで目を見開いて、遅れて構えだした。



「わかったろ。お前らは邪魔だ」



闇を薙ぐ。それを飲み込まんばかりの赤が広がり、わたしたちも血の刃で囲まれた。



「どうして。ルシファ。どうしてなの」



どこか泣いているような、酔いしれているような、蠱惑的な声。透き通った声は溢れんばかりの感情を押し殺しているようだ。



「な、なんじゃこりゃ…。おい、ゼロ。説明を」


「吸血鬼(ヴァンパイア)のティナ」


「えぇえええ。こんな美女なの?吸血鬼って!いいなあ、ちょっと血を吸われてくれても…」


「血を吸われたら傀儡になるぞ。ヴァンパイアってのはそうやって支配して繁栄したんだと」


「…どこの情報?めっちゃこわいじゃん」


「銀(しろがね)」



会話の間にも血の刃は降りそそぎ、熊おじさんが土の盾で防御し、ヤマトが風でなんとか攻撃を逸らそうと必死になっている。ゼロさんはヴァンパイアのティナから目を離さない。



「ゼロ!だめじゃ!こりゃ粉々にされるぞ!ワシの魔法を貫いてくるわ!」


「僕もちょ、きついよ!スター、もっと力をかして!」


「馬鹿言うなよ。オレ様も限界だ~~~」


「だから逃げろっつっただろうが。俺があんな邪魔でしかないやつを始末できてない時点で察しろよ」



はぁと大きくためいきをつき、ゼロさんはわたしの頭に手を置いた。



「さっさと行け。後で迎えに行ってやるから。お前もクロがいれば死ぬことはねぇだろ」


「死にそうなのはゼロさんじゃん!剣だってないのに!」


「死なねぇよ。あいつは俺を殺せない。殺したいんじゃなくて手に入れたいらしいからな」



そんなのどっちでも変わらないよ!!



「ルシファ、るしふぁ、ルシファアアアァァァア!!!!」



ヴァンパイアが叫び出し、長い髪を振り乱して頭を抱える。同時に血の雨が降り注ぎ、それは槍となってわたしたちに降りそそいだ。



「どうしてどうしてどうしてなの!どうして見てくれないの!?どうして一人にするの!たすけて、たすけて!父さんも母さんも死んだの!一人は怖いのよ!!

だから滅ぼさないと!だからあなただけでいいの!」



意味のわからない言葉の羅列。悲鳴のような血の槍は次々と召喚されていった。



「まかせぃ!!」



それを熊おじさんの魔法で土のドームを作り防ぐ。貫いてきたものはゼロさんが素手で払い飛ばしていた。



「ふふふ、くっくくくくく」



ドームが崩れるのと同時に響く笑い声。先ほどの美しい声よりも、落ち着きをともなった妖艶な声に聞こえた。



「はは、ルシファーよ。そなた弱くなったのか?」



その目には理性の光があった。衣装まで変わり、露出の多い服をマントで隠している。あの狂った様子を見た後では別人に感じるが、それは違うと本能が告げる。



「おまえこそ、抑え込むのに時間がかかったな」


「うむ。どうしてもの。うまくいかぬ時とはあるものよ。

妾には無限に時間があり、そなたを落とすには狂気は不要というのにおかしなことだ」



くすくすとヴァンパイアは笑う。身の毛がよだつほどに美しいその光景に全員が唖然となっていた。


それを見てゼロさんは手近な熊さんに張り手をかまし、空気にあわない甲高い音が響く。



「あんまり見るな。アレは人間を誘惑する」


「っっっっっ。わ、わかった!別人かと思うくらいに様子が違うが…」


「本人だ。様子が違っても中身は変わらねえよ」



痛みにこらえながら熊おじさんは顔を伏せ、わたしをひょいと抱えた。何故かという前に口を塞がれる。



「ありんこ、言いたいことはわからんでもねぇが、あの女はまずい。


魔力感知の欠片もないワシでもわかる。あんな力を奮われるくらいなら、天災にまみえるほうがマシってもんじゃ」


「だからってゼロさんを置いていくの!?」


「ゼロしか対面さえできんってことじゃ。ワシらじゃ足元にも及ばん」



憎々しく、熊おじさんは言った。



「そんなさみしいことを言うでないわ、老人よ。自己紹介をしようではないか」



恭(うやうや)しく、ヴァンパイアは礼をする。その背中に月を携えて。



「妾の名はルナ。100年あまりを生きるヴァンパイアのティナを司る者。


そして、ルシファーとともに夜の世界を統一し、人の世を終わらせる者だ。


短い間ではあるが、記憶にとどめておくがよい」



人の身なりで、人の声で、人の理性を宿しながらルナは言った。

そこに迷いはなく当たり前のような物言いだ。ふざけるなと思っても口にだせないくらいに。



「さっきみたいにとち狂ってないが本質は変わらねぇよ」



ゼロさんは煙草をくわえて、一息含む。



「こいつは自分の意思でティナに堕ちた。それでも自我がある。

ティナとしての考え方に染まったのか、元からそうなのかしらねぇがな。

俺みたいに呑まれないようにして生き残ってるんじゃなくて、完全に呑まれたのに理性を残して生き残ってる特異体質だ」


「呑まれたのではなく、意見の一致と言ってほしいの。なんというか…この力は身になじんだのだ。妾の遠い祖先はヴァンパイア一族なのではないかと疑うくらいに。

ただ、少しばかし、ティナの怒りや憎しみは強すぎた。時折うまくいなくなる程度にの」



くすくすとルナは笑う。



「妾は愛おしいよ。人間も妾もこの世界も。だが、やはり滅ぶべきと思うのだ。


何故かな。妾の世界、それが欲しいのかもしれんな。人間が憎いのかもしれぬ。


しかし、何よりも妾はルシファ。そなたさえいればよい。このような美しい女にそこまで惚れ込まれて喜ばしくはないのか?」


「束縛されるのは嫌いなんだよ」



それに、とゼロさんは続けながら吸い殻を投げ捨てた。



「お前は思い通りにならないから俺が欲しいんだろ。くだらない自己満足に付きあわせるな」



吐き捨てるようにゼロさんは言った。いつもと変わらず、誰が相手でも変わらない。



「ふ、ふふふ」



こらえきれない笑みがこぼれ、花のような笑顔が広がる。長い腕で胸を押さえて心を隠すようだ。



「そう。だからそなたなのだ。妾に屈しない。力の差があれど何も変わらない。


強く、気高く、美しい孤高の王。 嗚呼、欲しい。欲しくてたまらぬ。


世界を滅ぼして、妾たちだけのものにして、そうしたら、邪魔するものはいない。


そなたと妾で、魔の世界を作り上げて、だから…」



狂い始めたルナの姿が消え、辺りは血の海に染まった。地面も空も、すべてが赤。



「必要なのはルシファーだけ。そなたはいらない」



その血の海から無限と思われる腕が現れ、いっせいにわたし達に躍りかかってきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。