05
前もそうだった。ジルおじさんたちに襲われた時も。
何故か、ざわざわするんだ。
「おまえ!」
ゼロさんが叫んで前に出ようとするも、既にわたしは水と氷が混ざった魔法に包まれていた。
水は、効かない。衝撃もないし痛くない。
でも氷になるとダメだ。浅いけど切れている。ゴンゴンとぶつかって少し痛い。
あと氷に閉じ込められてしまった。息が、できない。
「馬鹿が!」
ゼロさんによって、瞬時に砕かれた氷がきらきらと散る。
「魔物の魔法まで無効化するかわからねぇだろうが!死ぬ気か、この馬鹿!」
お、お、お…確かに。
魔法が効かないならばと思ったけど、人間と魔物じゃ性質が違うんだった。
「ご、ごめん」
「ごめんで済むかよ。今後一切俺をかばうな。こんな魔法くらったところで俺は大したことねぇんだよ!
熊、こいつを下がらせとけ。ようやく本体が見えた」
ゼロさんの赤い目の先には、小さいやつがいた。小さい、イカみたいなやつ。
こんな小さい本体で、あんな大きい足が10本もあるのか!
「魔法事態は本体の方が上らしいな!よしゃ!ワシが突いてくる!」
「お前はガキを守ってろ。カラス、来い」
「ったく!カラス使いが荒いぜ!」
ゼロさんの銃がぼんやり光り、そして発砲した。
すでにスターの姿はなく、弾は一直線にイカへと向かっていった。
「ゼロぉ!島だ!」
「熊は足を押さえろ!全員!最大火力の準備だ!1分後に間に合わせろ!」
弾が当たる。高い悲鳴があがり、何故かそのイカが浮いた。スターがイカに憑依したのだ。
『はっはー!あんなに早く飛んだのは初めてだぜーい!』
なんとスターはゼロさんの銃弾に憑依し、着弾と同時にイカに憑依したのだ。足10本を含めれば重い魔物だが、海に浮いていて本体は小さなイカ。スターの力でも十分に飛べる。
『ほらよ!いっちょあがりだぜ!おらああああ!!』
スターが天高く飛び、そして上空からイカの魔物を捨てる。
ゼロさんが剣を投げ、イカの体はその孤島の大地に串刺しにされた。
「ぎいいいいいィィ!!」
そして、全ての魔力を総動員した魔法が海を荒らす。一斉に躍りかかってきた足たちは熊おじさんが全て固定し、ひとつも動かさせない。
「…ち。これじゃ火力不足だ」
「これでも足りないの!?」
上に広がる巨大な魔法を見れば、そうとは思えない。でも、ゼロさんの見ている景色はわたしとは違う。
「俺がやるしかねぇか…」
ゼロさんの体からじわりと闇が揺らいだ。
何故か、命が滲むように思えた。
「だめ!」
わたしの叫びと魔物の最期の抵抗。これが同時に起き、固定された足が暴れる。ひとつが枷を外して、司令塔であるゼロさんへ向かった。
ゼロさんの目が動く。片手をごきりと鳴らし、避ける気はないようだ。
なぜ? ここにわたしがいるから?
一瞬の出来事に体が咄嗟に動く。
「ゼロ!!あぶねぇ!!」
熊おじさんが遅れて叫ぶ。
ゼロさんが片手を食わせ、もう片方の手で闇を放つ姿が見えた気がした。
だめだ。それ以上力を使ったら、だめなんだ。
「従え!!!巨となり屠れ!!!!」
突然で、何が起きたのかも、わたしが何を言ったのかも、わからなかった。
ただゼロさんが無事で、綺麗な赤い眼でわたしを見ていた。




