03
クロちゃんが海に飛び込んで、あたふたするわたしを余所にゼロさんは涼しい顔で海面を眺める。やがて海面が赤く灯った。
「ぎぃいいいぃぃぃいい!!」
そして、魔物の首根っこに喰いついたオオイヌが現れたのだ。額には赤い角があり、強靭な体躯は夜のように真っ黒。
そのままイヌは獲物を甲板に叩き付け、角で体を貫く。魔物の体は無傷で、その代わりにオオイヌの赤い角は藍色へと変わった。
「放て!!」
困惑する一同にゼロさんは構わず指示を行う。
遅れて発動した強魔法をオオイヌはひらりと避け、ダメージを負った魔物に直撃した。魔物も応戦しようとしているが、得意の魔法は出てこない。魔物だけど、驚いてうろたえているのがすぐにわかった。
「うきゅ」
そして気付けば頭の上には小さなクロちゃんがいた。体はずぶ濡れだ。
「…さっきの大きいの、クロちゃん?」
「きゅ」
「なんか、額の石、赤じゃなくて藍色になっているよ?」
「うっきゅ~」
得意げに体を揺らすクロちゃん。
「こいつはこう見えて多才なんだよ。相手の魔法を封じることができる。
あの巨大化にしても時間は短いが、できることが多い。カラスより何倍も使える」
そんなクロちゃんに一度目を向けて、それから畳み掛けるように指示を飛ばすゼロさん。魔法が使えず、泳ぐことすら困難になっているようだ。
そもそも熊おじさんが海に帰させたりしない。結果こちらの攻撃を避けることができず、鱗がばらばらと舞い散っていった。
「熊。とどめ」
「よしゃ、お前らどけぇぇえい!」
最大の防御と攻撃力を誇る熊おじさんが、魔法で武器を作って…ではなくそこにあったモリを片手に蛇に向かって飛び込んだ。
「…あ?」
さすがのゼロさんも予想外だったようだが、止める暇もなく猿のようにすばやく体をよじ登った熊おじさんは、脳天めがけてその切っ先を叩き込んだ。
「シィイイイイイィイイアアアア!!!!」
「うおおおおおおおおお!?」
崩れていく魔物にしがみつき、そのまま海へばっしゃーーん。魔物はぷかりと浮かび、海の中の熊おじさんは本当の熊のように両手でガッツポーズをした。
歓声があがる。誰一人欠けることなく勝ったのだ。
「…」
「ん?ゼロさん?」
騒がしい船の上で、ひとりゼロさんだけが目を険しくさせる。
それにあわせてクロちゃんも唸りながら辺りを見渡していた。
「全員船を守れ!!」
ゼロさんが声を張り、何事かと考えたチームたち。その油断した時間が仇となった。
船を囲むように、海面につきだした何か。
それは笑うように、「シイイイイ」と鳴いて、そのまま船も船の上にいる人間も、まとめて叩き潰すかのようにその体躯を船へと倒した。




