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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第五章 魔物討伐
53/354

02




敵は蛇のような、ウツボのような巨大魔物だった。

びっしりと並んだ歯を海面から突き出して、いくつもある眼で船をとらえている。今のところ動きはなく、観察中か。


尾は見えない。全長は想像するしかないな。体当たりか、尾の叩きつけで攻撃するか。どちらにしろ注視しておく必要がある。



「熊、船の後方に油を流せ。Dの赤、火をつけろ」


「いきなりワシの船を燃やすんか!まぁいいけど」



夜の海は視界が悪く、加えて天候も悪い。


人間ってのはこれだけで精神的に参る弱い生き物だ。明かりの確保は必須。



「A、弱、一斉攻撃」


「「おおおおお!!!!」」



適当な魔法攻撃。

魔物は意も返さず、鱗を貫くことはなかった。強度はそれなりにあると考えていいだろう。


返してきた攻撃の属性は水。水でぶった切られるか、溺れさせられるか。あとはかみ砕かれるか、氷か体で潰されるか。まぁそんなとこだろう。



「じゃ、熊。まずは挨拶で」


「了解じゃぁぁぁあああ!!!!」



橙の使い手である熊は、海賊のくせに大地を操る。


しかも金属の扱いは不得意で、得意なのが土と砂ときた。その砂が海底から巻き上がり、熊の右腕に槍となっていく。


ホント、お前海で暮らすメリットねぇだろ。



「喰らえや、蛇公!!!」



自慢の剛力で放られたそれは、一直線に魔物の首へ飛びその鱗を砕いた。



「ギシャ、シャアアアアアアアアアアア!!!」



鱗を割られたことが勘に障ったのか、魔物は海に渦潮を作り出し、船のコントロールを奪おうとする。あわよくばそのまま沈める気だろうが、ここの船員はその程度で怯んだりしない。



「Cの藍、渦を逆回転させて解消しろ。Aの黄、あいつの目に光を撃て。A-B、残りで首を狙え」



Cの藍は、ここの船乗りだ。海の扱いは長けてる。魔力量の弱いA黄も光くらいなら負担なく放てる。


そうやって、次々と指示を飛ばす。



「おい!回復しおったぞ!」



へぇ、再生が早いな。鱗の修復が終わってる。これじゃ通らねぇな。


次は物理でくるか。船員云々より、まずは船を止める気だろう。


青や橙といった物質的な防御が可能なメンバーに盾を張らせる。それには熊も加わり、突進攻撃は楽に防ぐことができた。


それにしても、船がぐらつくのは面倒だな。いちいち水を扱える奴に指示だすのもめんどくさい。



「盗人。空を行け」


「え。一人で?」


「渦ができたところにこれを投げ入れるだけでいい」



まとめて渡したのは吸魔石。魔力を吸う石だ。


あいつが作り出す渦潮には魔力が使われている。ならこれを入れるだけで止まる。

無駄に渦を消すのに魔力を使わなくていいならそれに越したことない。



「…これそこそこ高級だけど、どこから?」


「どこぞの金持ちから拝借した」


「拝借って、返す気ないよね!?」


「まぁいいだろ。ついでに気を散らしてもらうと助かる。得意だろ?カラス」


「よくわかってんなあ!!いくぜ、相棒!」


「んああ、わかったよ!」



勢いよく立ち上がり、急にカラスが消えて盗人が飛んで行った。



「ふぇ!?」



間の抜けた声を漏らすガキ。

まぁ驚くだろうな。魔物を見るのも初めてだろうし。



「あのカラスの力。あいつは人でも物でもなんでも憑りつくことだけできるんだよ」



魔物は人間のように属性が5色のうちと決まっていない。意味不明で説明できない力を使うことができることがあるんだが、あのカラスがそれにあたる。



「す、すごい。すごいのかな?」


「まぁ、憑りついても操ることはできねぇし、ただ憑依するだけで何もできねぇ。

憑りついたやつに飛行能力を与えることができるだけ」



それがなくとも、盗人も風の魔法を扱えるんだから飛べはするんだが。



「……」


「あいつらは少しも戦えない代わりに、潜入とかには役立つんだけどな。あと、ああいう雑用は得意」



的確に渦に石をおとしながら、魔物を錯乱させる盗人。

見たところ、敵の魔物は特殊な能力はないらしい。蛇らしく噛みつき、魔物らしく魔法を使って交戦している。


護衛どもも多少の戦闘の心得があるらしく、確実に攻撃に対して応戦し、今のところ負傷者も出ていない。


ま、そう、うまくはいかないだろうな。


魔物の魔力の急上昇を感じ、道を開けさせて前に出る。



「熊、剣」


「んお?ほらよ!」



突如、噴射された巨大な氷の(つぶて)

蜘蛛の子を散らすように、わめきながら一斉に逃げる戦闘員ども。


おいおい、逃げたら船が大破するだろうが。そうなると死ぬのはお前らだろ。


半ば呆れながら、砂を固めた一振り限りの剣を唸らせる。

ティナの膂力を用いず、高速で飛んでくる氷の礫の威力を殺さず生かして流す。



「ぎしぃ!?」



そして、その大口に向かって跳ね返した。


その顎で自分の魔法とは言えど、堪えることも受け止めることもできず、直撃した魔物は海の中へ沈んでいった。



「お。おおおおおおおおおおおおお!!!」



遅れてあがる歓声。

俺は砂に戻っていく剣を捨て魔力を探った。



「Aは下がれ。交代だ。

熊、30秒こらえろ。B、Cは最大火力の魔法を練り上げ、30秒後に同時に放つ。Dは次の準備をしてろ」


「ほい、きたあ!!」



全方位から上がる水しぶき。

その水で船を沈めようとしているのか、衝撃と重い水が船をぐらつかせる。おまけに渦潮も複数個所に同時に出現した。


だが水は砂に吸われて、海底へと戻っていき、衝撃も砂が吸収する。


渦潮が同時に出てこようが、盗人は無駄に器用だ。一度にばらまいた石が吸い込まれるように渦潮に刺さっていく。


あー、めんどくせぇ。こいつ海から出てこねぇ気か。



「クロ、いけるか」



いつの間にか、ガキの頭から俺の肩に移動したクロは、胸を張って小さく鳴き、そのまま海に飛び込んだ。



「ええええ!クロちゃん!?」


「心配すんな。あれでも生き残った種族だぞ。どこぞの自然発生した魔物とは一線超えてる」



そして、あいつはカーバンクルの中でも特殊だ。


カーバンクルは、額の宝石で色々できたらしいが、それは戦うよりも逃げるためのものだったらしい。


だが、あいつは違う。おそらくは生き残るため戦う力を求めたんだろう。


応えるように、暗い海に赤い光が灯った。




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