01
「あらかじめ言っておく。今の俺はほとんど魔力を使えない。
ただ、お前ら含めて魔力の動き、総量が見える。それと諸々の知識を総動員して何を考えているかも多少わかるし何より動きの予測ができる。
魔物の討伐なんざ腐るほどやってきた。だから俺の指示に従え。従えないやつは雇い主と牢に入ってろ」
ゼロさんはまずそう切り出した。
集まったのは熊おじさんをはじめとした実は海賊ですよ船員たち、お金で雇われました護衛、
それから発端者である奴隷さんことヤマトとスターだ。
人数は30人程度。戦える人はもっと少ない。船を操らないといけないし、けが人の手当てに回る人も必要だからだ。今、見張りをしていたり武器で牽制している船員さんを含めても20人いくかどうか…。
そんな状況の中、ゼロさんの問答無用の姿勢に誰も何も言えなかった。立ち去る人も意見を言う人もいない。
「まず、戦闘能力皆無な邪魔者は牢にぶちこんどけ。一歩も出すな」
「うむ。それは船長であるワシがやっておいたぞ。非常事態ということで頷いてくれた!」
強面の熊さんに言われた金持ちさんたちはきっと誰もが無言で従っただろう。
非常事態だから、という理由だけで従ってはないと思う。なにせプライドが全てみたいな人たちの集まりだし。熊おじさん、さすが。何をしたかは聞かないでおくね。
「わかった。とりあえず、それぞれの魔法適正を知りたい。色と、最大火力でできることと最低火力でできることを言え。熊はこの船の装備を。一斉にでいい」
一瞬間が空き、それぞれがぐちゃぐちゃと言って騒がしくなる。
わたしには何を言っているのかわからないが、ゼロさんにはわかるらしく、聴き終えてすぐに班分けを始めた。一組5人の4チーム。残りは船の操舵係だ。
「船は真っ直ぐ進め。攻撃を避けるとか不可能なことを考えなくていい。ただ沈めないようにだけは気をつけろ。岩礁に乗り上げたとかアホなことしでかしたら魔物より先に俺が殺す。
じゃ、2分やる。チームごとに能力を理解して、その中で非常時のみのサポーター1人選抜しろ。そいつは戦力にいれない」
指示通りにチームごとに分かれてがやがやと話し出す。
チームに含まれなかったわたしや熊おじさん、ヤマトたちは手持無沙汰になりゼロさんのもとに自然と集まった
「ワシは基本船の守護でいいかの」
「ああ。人間を見るな。俺の指示と船だけに集中してろ」
「僕は?戦えないよ。絶対に無理だからね」
「最初から数にいれてねぇよ。お前は状況把握。周りを見ろ。綻びがあれば知らせろ」
「イェーイ、怪盗の目の鋭さを教えてやるぜ!」
「ね。わたしは?」
「あ?牢屋に行けよ、お嬢様」
なにをばかな、いまさらな!
「お前は戦力外だろ」
「飛んできた流れ魔法くらい防いでみせる!」
「…じゃ、俺の雑用係」
よし。仕事ゲット!
「流れ魔法くらいって…ありんこ大丈夫なんか?」
「ああ、お前らには言ってもいいか。こいつ、魔法きかねぇんだよ」
「「…はい?」」
ということで、与えられた2分間はどこも言葉が飛び交う、少しだけ騒がしい時間になった。
海は大荒れでぞっとするけど、船員の腕は確かだとゼロさんが言っていたので心配はしないでおこうと思いこむ。………滑って転んで海に落ちたらどうしよう…。
「時間だ」
ゼロさんの響く声で、一斉に向き直る。A,B,C,Dと名前を付けられた班は、簡単にゼロさんから説明を受けた。
流れは、5分程度のローテション。
AとBが最初に戦い、Aは5分でCと交代、それからBはDと交代してそれの繰り返しで、あとは随時ゼロさんが指示する。
体力的には性能の問題で魔物が上だから、それを考慮し長期戦を見込んでの戦法ならしい。
「万一の時は俺が動く。それに目的は討伐じゃない。逃げ切ればいいだけだ。
だから無理だと判断したやつは船室にこもれ。怪我人の手当てに人手を使うつもりはねぇ。やれるかどうかは自分で決めろ」
そして、耳を切り裂くような咆哮が響き、戦いの幕は切られた。




