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「………で。なんでこうなってんだよ、お前」
「いや、その、すみません。名前、ほんとすみません」
「質問に答えろよ。あと金は返せ。倍でな」
「はい、はい。オッケー。あの、ごめんなさい」
「だから質問に答えろよ。あ?」
小さな一室には、ゼロさんが速攻で購入した奴隷さんと熊おじさん、わたしとゼロさんがいる。
人払いも済んでおり、ここは船長さん曰く防音に徹した部屋ならしい。
「あの、いつものやつです。ほんと、勘弁してくれやってね」
「………このど阿呆盗賊が」
「怪盗っていってね。ごめんなさい。ど阿呆怪盗でよろしく。あ、はい。ごめんなさい」
後ろでは熊おじさんが声を必死でおさえて笑い、目の前では正座した奴隷さんとゼロさん。わたしはソファーでクロちゃんとクッキーを頬張ってた。
「あの人誰なの?」
「ぶふふふふっ、あいつはな、あれでも超有名な盗賊じゃ。まままままさか奴隷に化けて船に乗るとは……ぶふふふふふ!!!!」
「違う!違うよ!」
その言葉に、慌てて身ぶり手振りで否定する奴隷さん。
「僕は、怪盗だから!!」
うん。この人バカだ。
「で?怪盗さんは何のつもりでこうしたんだ?あ?」
「あ、今日はね。情報収集に来たんだけどね。ほんとすみません。うちの相棒がこんなやり方で潜入させてさ。もー、僕もびっくり。
船はグリさんのものだったし、ゼロさんもいるしで。あーあ、びっくりびっくり。
船のセキュリティもかたいしさー。ついでに聞くけどそちらのお嬢さんだれ?」
「その相棒はどこだよ」
「呼んだら来るよ、たぶん。
おーーーい!ゼロさんが呼んでますよーーー!」
そんな大声が許されるわけもなく、瞬間でゼロさんにボコられる奴隷さん。
もうペースについてけない。なんなんだ、この自称怪盗は。
「キュ?」
撫でられ担当のクロちゃんがするりと抜け出し、窓まで駆けて、器用に鍵を開けると、見計らったように何かが飛んできた。
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁあ!!」
奇妙で甲高い声が響き、それは窓を貫いた。
向かう先はゼロさん。
咄嗟に止めようと手がでるも速度が違いすぎる。
「きゅぅうあ!」
「おおっと!」
横からクロちゃんが飛び込み、突撃は中止。ナイスだ!クロちゃん!
当のゼロさんは何も気にしてないみたいだけど。
「オレ様の相棒を返してもらうぜ!帝王!」
「返さねぇよ。今は俺の所有物だ。文句があるなら俺から買いなおしてみろよ。カラスが」
「ふはっはぁ!口が悪ぃなあ、帝王!いいぜ。オレ様の本気をみせてやらあ!」
見た目は、鳥。ただの鳥だ。しゃべるけど。
しゃべるただの鳥…カラスに似ている?かな?
それがゼロさんにこんな態度って、まさかめっちゃ強い……?
「うぎゃああああ!!!!」
なんてことはなかった。
「おい、クソガキ。お前初めて見るだろ?」
「えーと。しゃべる鳥を?」
「魔物」
動物は人間のように魔力を得ることができない。得ることもなくて、生物にもともと備わった魔力だけで、考えたりするみたいなんだけど、人間のように周りのマナから魔力を得て魔物になることが時々あるらしい。すごく凶暴だったり、賢かったり、魔法が使えたりする。
だから人間にとっては危険で、国が動いたり討伐隊が組まれることもある。それが魔物ということだった。
「でも、核に穴をあけられないんじゃないの?」
「は!人間のような軟弱なのと一緒にすんなよな!」
カラスが羽ばたき、ばばーんと大きく羽を広げる。
「オレ様たちは自分でやるんだよ!死ぬ気になればなんでもできる!くっそ痛えけどな!」
「すごいね!鳥さん」
「鳥さんじゃねぇ!オレ様は漆黒のブラックスター!!」
ださい。
「ま。気軽にスターと呼んでくれや。おちびさんよ」
「スターの方がちっさいじゃん」
「オレ様は器が海のように広いんだ」
ということで、どう見ても普通のカラスのしゃべる魔物、スターと知り合いになった。
ゼロさん曰く、スターの戦闘能力は皆無。通常のカラス並みであるとのこと。
スターはぎゃーぎゃー騒いで否定していたけど、本気の嘴攻撃は安物のテーブルさえ壊せずに、ただスターが痛みに悶えただけだった。
それでも「オレ様は強い!」と喚いたけど、ゼロさんが指一本で机をたたき割るとそれも止まった。
「で、オレ様に何の用だ。帝王。話があるんじゃねぇのかぁ?」
切り替え早っ!
「仕事を頼みたい。受けるなら、そこの奴隷は解放してやるよ」
「へえ。面白さが一番大切だ。要件をいいな」
「その前にここに来た理由を言え」
「そこの雑魚がいっただろ。情報収集だよ」
「…流石に鳥の心情は読めねぇな。おい、嘘じゃねぇだろうな」
「オレ様は嘘をつかねぇよ」
と、ドヤ顔をきめるスターだが、その後ろでばたばたと奴隷さんが暴れる。
「嘘だ!嘘嘘!ゼロさん、そいつ大ウソつきだから!!」
「ば、馬鹿!やめろ、ヤマト!嘘つかないことが嘘だってことにしたかったのに!!というか、お前も嘘つきってばらしてどうすんだよ!」
スター、さいあく。
もう嫌いになりそうだ。
「………で?」
これでもかというほどに、ゼロさんの目が険しく光る。眼光で人が死にそうなくらいに怖い。カラスに対しても同じだったみたいで、スターは項垂れて嘴を開いた。
「ちょっとな。ちょーーーっとだけな。魔物同士でケンカになっちまって。いやさ、良い石だったんだよ。ほんとに。でな、相手が怒ってオレ様たちを殺そうとしてんの。そんなとき、偶然船があったからさ」
罰の悪そうなカラスは可愛く小首をかしげた。
「帝王。助けてくんね?」
それと同時に海を叩き割るような激しい音が響いた。




