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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第四章 航海
48/354

09




快晴!海も青い!風も気持ちがいい!


今日は最高の海賊日和だ。



「おっ頭ぁ~!そろそろ陸が恋しいよぉ~」


「海の男が何を言うとる!おらおら!全速前進!」


「肉が食いてぇよぉ~!!」



ワシは海が大好きだ。

三度の飯よりも好きだ。いや、飯も好きだがな!


海と飯が好きなら漁師をやれと言われそうだが、ワシは海が広く、広く、広いのが好きだった。

だから海賊となった!海を仕事にするのは嫌じゃった。


ほら、船とか邪魔じゃし。あれは海の広さを縮める。それに、海の恵みを狩り尽くさんとするような輩にはなりたくないし、むしろぶっ潰してやりたい。


まぁ、正直なところ海賊業はついでで、ただただ邪魔だから壊して要るものだけ盗ってたら海賊になっちゃってたってのがホントの話なんだけど。


と、いうことで、ワシは陸に上がることはほとんどなく、海の魚や空の鳥を狩り、野菜は海藻、水は魔法で補って暮らす日々が続いていた。


そんなある日の大事件。



「おぉう?なんだか騒がしいな」


「何処から聞こえるんすかね?」



静かな海に相応しくない音。


バンバンバンバン

ブゥーーン、ドドドドド


だが、視界に異常はなく、大好きな広い海だった。



「むう?」



首をかしげていたその時。


ボタボタボタボタボタボタボタボタボタ!!!


青い空から雨のように降り注ぐ音。

甲板は、赤。

ワシの額から伝うものも同じ色をしていた。



「お頭!上ぇ!!」



部下の声に導かれて見上げる。大きな黒い何か。


最初は鳥かと思った。

でかい鳥が一直線に落ちてきていると思ったのだが、その考えは直ぐに改めた。

ワシのすぐ横に落ちてきたものが人の腕だったからだ。


そしてワシは、いやぁ何でそうしたのかわからんのだけど、それを受け止めた。腕と胸でガシッと。



「ぬぉぉおおお!!」



それでも勢いは止まらず、甲板を突っ切って下の倉庫に突っ込んだ。


ドンガラガラガラガッシャンコ


すんごい音がしたもんだ。



「お、お頭!?」



心配する部下たちにワシはすぐに返事を返す。



「大丈夫だ!はやく帆をあげて旋回しろ!逃げるぞ!!」


「何からっすか!」


「知らん!とにかく急げ!」



ワシは珍しくもテンパった。もう部下に丸投げじゃったし。


でも、誰だってそうなると思う。


なにせ落ちてきたものは片腕のない子供で、その背中にはボロボロの翼が生えていたんだから。



「おい!おい!生きてるか!」



返事なし。

とりあえず手当てをしようとはするが、どこからしていいか、わからんほど傷だらけだった。だから、手当たり次第の布で傷を縛りまくり酒をぶっかけた。


当たり前だが激痛が走るはず。それでも子供はピクリとも動かない。



「よし、死んでるならゆっくりしていろ!外が騒がしいからワシは行くぞ!」



非情にも思えるだろうが、専門外のことなんか知らん!



「お頭!何してんすか!はやく来てくれ!」


「じゃ、あのガキを診てやれ!頼んだぞ!」


「はぃ!?ガキ?………って、やべぇ怪我してる~~~‼」



ということで船を操る部下たちのところへ走ると、そこはいつの間にか戦場になっていた。



「お頭ぁ!軍だ!」


「見たらわかる!」



敵は飛空挺(ひくうてい)

空からバラバラと鉛弾を浴びせてくる。


そんなもので沈むようなヤワな船じゃあねぇが、乗っている船員は違う。当たり所が悪けりゃ即死だ。


というかよ。

飛空挺なんて滅多に出てこないレア武器だぞ?なんであんな子供一人に何機も来てんだ!



「全速で進め!空船(そらふね)は燃費が悪い!そこまで追ってこれねぇはずだ!」


「その前に風穴空いちまうよ!」


「やっかましい!いい感じに当たりにいってピアス穴にしちまえ!」


「んな無茶な!!」


「無茶は承知!行くぞ‼️野郎共!空に遅れをとるな!死ぬ気で戦えー!」



よく考えれば不思議な話だ。


仲間のあいつらは砲弾を打ち、魔法を放ってガムシャラに戦ったんだが、誰もが落ちてきたそいつを渡せとか、取引とかなーんも考えてなかったんだからな。かくいうワシもその一人だけどね。


戦闘は長続きしなかった。

なにせ、こちとらシャークヘッド海賊団。そこんじょそこらの戦闘で音をあげるような雑魚じゃねぇ。水と風の魔法をもつやつが船の速度をあげ、土の魔法をもつワシが徹底的に守って攻撃。

あとは適当にその他が頑張る感じだった。



「がっはっはっは!!間抜けな蝿が!腕あげて出直せや!!」



船、無事。死者もなし。快勝である!



「いやだよ、出直さんでくれよ」


「ん?なんじゃい。お前ら根性なしか?」


「根性はあるけど元気がねぇよ。あーー、体いてぇー」



とはいえど、負傷者多数で船も傷がついた。沈んだりはないが、ワシにとって家でもある場所がボロボロなのは気が進まない。



「頃合いじゃの」



そのとき、暫くぶりにワシは陸にあがることを決意したのだ。



「っとぉ!?」


「うわっ」



そんな稀有(けう)な時にも関わらず、背後に空気の読まない騒がしい音。咄嗟に振り向いたワシは驚くものを目にした。


そこにいたのは、治療にあたっていた部下の首に手をかけたあの子供だ。床には血が滴り、よく見れば足も折れてるらしい。


だが、その目でワシを睨んでいた。


いやいや、子供のする目ではない。というより人間のする目じゃない。


暗い青の目に光はなくただただ無感情。年は12、3程度に見えるが、痩せ細った体もその目もまるで子供らしくはなかった。



「おどれ、恩人に何をするか?ガキが!」



ワシは怒鳴った。


強面の熊さんが吠えれば誰だって竦み上がるというもの。大の大人だって、シャークヘッドの連中だって同じだ。


あと、ちょびっとだけガキが怖かったのを誤魔化したのもある。


しかし、目の前のガキは動じなかった。

ただ部下の首を差し出すだけ。



「………お頭ー、たすけてー」



緊張感のない部下がお手上げ、をする。それにしても信じられなかった。傷だらけのガキが捕まえてるそいつは、何だかんだでここのNo.2。隙を突かれたにせよ容易く捕れる首じゃあない。


さては寝たか?

寝たな。こいつ寝起き悪いし。



「おうおう、じゃりんこよ。人質をとるからには要求せぇ。黙ってちゃわからんぞ?」



本当はこのまま黙って時間がたてば、出血の止まらないこいつがくたばるのはわかっている。

だが…こいつは、なんとなく。なんとなくだけども、息絶える寸前で船を沈めるくらいとんでもないことをしでかしそうな気がした。


まぁ、翼はえてるし。間違いなくティナを授かった子供だ。未知数な力を秘めているに違いない。



「………おい、お前ゼロだろ?」



人質がなんか言った。

なんかお前、余裕があるね。

助けんでいいかの。



「こんな幼いとは思ってなかったけど…そうだよな?だとしたらだけど、こっちも海賊っつー日陰者だ。仲良くしたほうがよくね?」



無機質な目がすっと下を向く。


人質と犯人の会話なんてありえるんだな、ととりあえず傍聴。



「それにさ、あんたも限界だろ?オレ医者だから、こんなでも。せっかく頭に助けてもらった命なんだから無理すんなって。な?」


「……」



何もしゃべらない。

ただ、船だけが進む。


もー、ほんとめんどくさい。ワシは見ての通りの荒くれもの。力でごり押しするタイプの生き物だ。こういうのは得意じゃない!好かん!



「よし、じゃゼロとかいうやつ!ワシと取引じゃ!

ワシはお前を陸まで連れていく!その代わりそいつを離せ!それまで互いに手出し無用としよう!」


「………」


「あと軍がたぶん追ってくるじゃろうから、その撃退は全員で。船が壊されちゃ元も子もない」



そこではじめて、ゼロは口を開いた。



「メリットはなんだ。契約を破ればどうする」



抑揚のない声だった。


こいつはホントに生きてるのか、と疑うくらいに。もちろんのこと幼さもない。スラム街や奴隷の子供だってこんなんじゃあない。


言い換えればそれだけ理性的だ。ワシはごくりと唾を飲み込む。



「航海が無事に終わることがメリットといえばメリットだな。契約を破ればーー、むう、そんときは自由にすればいいじゃろ。なぁ?」


「条件無しの契約は、契約として成立してない」


「やかましいやかましい!ワシはこういうのは嫌いなんじゃ!

お前は軍が嫌いじゃろ?ワシも嫌い!よし、協力して船を進めよう!これで何が悪い!!」


「俺はお前を好きでもねぇし、味方じゃねぇよ」


「のあ"ぁぁぁぁ!よし、じゃあこうしよう!

この倉庫の奥にな!この船の心臓部がある。お前はそこで休むといい!」


「お、お頭!?」



周りの動揺がはしる。知ったことか。じゃないとこいつとの話が終わらん!



「気にくわなければ船を壊せ!でも、そうして困るのはお前さんも一緒じゃ」


「……この男の代わりに船を人質にするのか」


「そうなるな!取引とかいう口約束より、この方が互いの害が一致してわかりやすいじゃろ!

船を壊されたら困るからワシらも手は出さん、お前もいたずらで壊すわけにはいかんから無闇に暴れたりせん!これでいいじゃろ?」



そして、軍が敵で味方が増えるという利も一緒。ワシとしては不都合なかった。


この子供は馬鹿ではない。今、この大海原で船をなくす意味をわかっていないはずがない。翼が治れば別なんだろうけども。


しばらくゼロは口を閉じ、それから言った。



「そこにつれていけ。俺からお前らに手はださねぇ」


「交渉成立じゃ。あ、でもちょっと汚れてるのは勘弁してくれな」



こうして航海の危機は乗り越えられ、ワシはゼロという子供としばらく過ごすことになった。


子供らしくもなく、人間らしくもない。


飯をうまいと言うことも、海を眺めることもない。ただじっと傷を治し魔力を練り上げ、己という刃を常に研ぎ澄ましていた。


気に入らなかったから何度もちょっかいをかけては追い返されて、結局最終的には別れも言わずに船から飛び去っていった。


でも何度も話した。時々返事も来た。


ワシはワシで意見を言って、ゼロはゼロでそれを否定してきた。まさか育てたなんて大袈裟なことを思ってはおらんが、大切な時間を過ごしたと思っている。ワシはね。



「思い出してんじゃねぇよ」



頭にすこんと、食い終わった骨が当たる。

なんじゃい。考えことくらい好きにさせんか!



「それにしてもの、こんなになるとはなぁ」



しみじみと、そう思う。

長く生きていける要素なんか一つもなく、あの痩せこけた体のまま死ぬのだと思っていた。



「うるせぇよ。昔は昔だ。それに、その後会ったろ」


「軍艦ぜーんぶ倒して、目をちょーーっと合わせただけじゃ満足せんわ!


よぉ、元気か?あん時は世話になったな!


おぉ!お前も元気だったか!とっくにくたばったと思ったぞ!


………くらいの話があってもいいじゃろう!」 


「知るかよ」



そう。あれからしばらくたってゼロはまた現れた。


その頃にはゼロもあり得ないほどに有名になっていて、ゼロと少ないながらも関わりのあったワシらは重点的に軍から狙われた。


まぁ、だから、こうして表の事業も始めたんだけど。


そんなある日、ちょっとヤバイな死ぬかなってなったときに、颯爽と現れたゼロが、艦隊を沈めて助けてくれたって訳だ。あいつのバカみたいなティナの力を知ったときもあれが初。


いやー、感動的だったね。あれは。


黒がどーんで、バラバラバラバラ。

あら。きれいな青い海。

素晴らしい力だ!!


それからワシらは偶然会って飲み食いしたのが一度あるだけで再開は数年ぶりのことじゃ。



「それで。あれからどうなんじゃ?うまくいってるか?」


「さほど変わらねぇよ」


「裏では有名になってしもうとるし。ワシ、あの時陸に上がって初めてお前さんのこと知ったしのう!」


「金額みて後悔しただろ?絶好の機会を逃したってな」


「いーんや。なんであのちびっこがこんなことになっとんだ??ってなった」



まだ子供だ。


ワシにとっては、どんだけ大人びていようがティナを持っていようが、明日の食料も確保できないような弱った子供だった。それを殺したからと、何故に貴族になれるほどの金額を一括で払わんとするのか。しかも、軍も国も貴族も教会も組合も、ぜーんぶ承認済み。


怪しさ満点スペシャルじゃろ。

怖過ぎ!



「………だよなぁ」



皮肉ぎみに、ゼロは微少を浮かべる。


目は、あのときのまま、何の感情もない暗い目だ。笑っても怒っても目だけが無機質。


ワシの知らないところで相当な目に遭ったのだろう。



「……寝るか!」



どうせこいつは言わんし、力になれるわけでもない。知り合いって具合でちょうどいい。関わるにはワシは弱すぎる。



「熊」


「ん?なんじゃ」



ちょうど部屋(牢屋)を出ようとした時だった。



「あの時は、助かった。あの船があって、お前が俺を受け止めなかったら、俺は死んでたと思う。……ありがとな」



ゼロから、感謝。


船で、飯を作ろうが治療をしようか話しかけようが、なーーんにも感謝なんて言わなかったこいつがか!?


ワシの血がすーーーーっと引いていく。


そして飛びつくようにゼロへ迫った。



「お前!そろそろなんか!?呑まれるんか!?」



首をひっつかまれたゼロは驚いた表情を浮かべ、いつものように苦笑いをつくる。



「なんだよ。せっかく礼を言ってんのに」


「質問に答えんか!早すぎる!早すぎるじゃろ!?お前どんだけ老けとるっていっても20代程度なのにそんな……」


「………」



ゼロは口を閉じる。

そして鋭い目を細め、ワシの手を首から外した。



「まだ、大丈夫」


「まだってのはまだまだってことか!」


「………さぁねぇ」



ゼロはいつもと同じ目で、同じ口調で言った。



「ま、長くはないだろうよ」



それから何度も何度も、怒鳴って喚いて力任せに頑張ってもゼロは何も言わなかった。


こいつは天才だ。


自分のことを誰よりも、神よりもわかっている。そんな奴が己のことで分からないことがあるはずがないのに。


限界がいつか。そんな簡単なことを教えてくれない。



「………ゼロよぉ。ワシはワシでな。結構気に入ってるんじゃぞ?お前のこと…」



部屋へ戻る道の最中に呟く。

誰もそれに応えることはない。




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