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ゼロさんの「うまくやれば」は、やっぱりうまくいったみたいで、戻ったゼロさんはどこか満足げだった。片手で瓶をぽんぽん投げてはキャッチし、ニヤっとしながら銀さんと通信している。
ちなみにわたしは、体も頭もぼやーっとしてるけど、クロちゃんが隣でいろいろ作ってくれて食べさせてくれたおかげか少しよくなってきた。すごく苦かったけど。
それにしてもクロちゃん、器用だよね。
手を見てみたら爪はちっちゃくて指は四本。物を掴むことも投げることもできるみたいだ。
「………じゃ、ガキ。俺はまだ用があるから休んでろ」
「ふぇ?」
そう言ってバサッと上着を羽織るゼロさん。
どうやら仕事はこれだけじゃないらしい。
「パーティーに紛れ込むんだ。それなりの準備がいる」
「でも……外いいの?ゼロさん怪我したばっかなのに」
「めんどくせぇけど、夜だからな。大丈夫だろ」
うぅ。
でも、ちょっと、うん。
なんだか心細い。
「………言いてぇことがあるなら言えよ」
「なんか、行かないで欲しい」
「なんで?」
「……わかんない」
じっとめんどくさそうな目を向けるゼロさん。なんか恥ずかしい。
いや、恥ずかしいよね。子供じゃあるまいし。
「……あ"ー」
重いため息と一緒に自分の頭をがしがしとするゼロさん。
「しょうがねぇな。確かに今出るのは危なくねぇ訳じゃねぇし」
「……嘘だ」
「嘘じゃねぇよ。32%くらいの確率で裏のやつらが襲ってくる。ここに」
あ、危ないのはここなんだ。ゼロさんじゃなくて。
「あの料理人も鮫野郎も口封じしてねぇからな」
そりゃ殺したらダメでしょう。
連合の人と協力者さんでしょ?
「でも、いいの?」
「服はここにあるもので揃えるとして…まぁなんとかなるだろ」
「………ありがとう。ゼロさん」
上着を脱ぎ捨て、タバコに火をつける。
月の下でもやっぱりだるそうで、だるそうだけど優雅だ。
「銀は明日には治るっつってた。休んどけ」
「うん」
布団に潜りこむ。やっと、この柔らかいベッドにも慣れてきた。クロちゃんもつれてく。
「ウキュー……」
そんな声だして。
ほら、撫でたげるからこっちに来なさい。
「……お前さ。何してんだ?」
「何って、撫でてる?」
ほら知ってるでしょ?
クロちゃんってば、撫でればサラサラ、首もとはモコモコで、尻尾は言わずともモフモフ。
神の毛並みをもってるんですよ!
「楽しいのか?」
「気持ちよくて、癒されるの。ほら、クロちゃんだって気持ち良さそう」
ぐでっとして、つぶらな瞳を細めて、う~って鳴いて。
ほらね。
そして発見。耳の毛、すごいフワフワ。
もう最強じゃないですか。
「……というかゼロさん、この癒しを知らないの?」
「発想すらなかったな」
「……会ってどのくらい経つの?」
「5、6、7年?そんくらいかな」
「っっっっっ!!」
も、もったいない!!!!!
「ゼロさん!撫でて!ほら、ほら!」
「いや、意味わかんね。なんで泣きそうな面してんだ」
「だって!だって!」
もったいなくて!!!!!
この毛並みだよ!この触り心地だよ!癒しだよ!?逆になんで撫でる発想が出てこないかが不思議だよ!
「泣くなよ。意味わかんねぇ……。もういいから体悪くする前にさっさと寝ろ」
無念だ。
無念だが、ゼロさんの言う通りだ。
体調は万全にしないといけない。
ということで、わたしは神の毛並みをもつクロちゃんを抱いて眠ることにした。
ゼロさんは何故か。そこから離れないでいてくれた。
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