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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第三章 ティナ
33/354

07




冷たくも 熱くもない暗闇のなか


声を聞いた


泣き叫ぶような音を



それに応えるように視界は広がる


初めて開かれた視界は生ぬるくて重い液体で歪んでいて


そんな朧気な景色のなかにそれはいた



手を伸ばす



涙を流す青い目は美しく


輝く白銀の髪は見るものを洗うようだ



指先がそれに触れる前に壁に阻まれ


そして世界に亀裂が入った



たすけて………――――――



泣き叫ぶ少女の体はガラスのように粉々になり


涙の色をした結晶へと変わった



差し伸ばした手は真っ赤な鮮血に染まり


その紅はゆっくりと、すべてを飲み込んでいった
















「‼っっっ………あ"―…」



また、夢か。

うざってぇ。何度目だよ、くそが。


側に置いておいた水差しの水を一気に飲み干してみるが、こんなもんでこの不快感は拭えはしない。あーあ、最悪だ。



「ほんとふざけんなよな……」



体がざわついて、並大抵のことじゃ変化のない心臓が脈打つ。上がった呼吸とじっとりとした汗が気持ち悪い。


つーかまだ夜かよ。全然寝れてねぇじゃねぇか。


魔力が戻ってるはずもなく、傷は……まぁ塞がりはした。でも内側は………貫かれた時にやられたか。これは治らねぇな、しばらく。左足も変わらず欠損。


ほんと、最悪だ。


寝直すには体が騒ぐし、汗とか気持ち悪い。もう破壊するのも嫌だ。すぐにでも洗いたい。傷口が開こうが知ったことか。



「…………んなことよりも」



ドタドタドタドタ


ガッシャーーーン


ガリガリガリガリガリ



「うっせぇな!さっきから!!」



鍵を外して扉を開け放つ。すると、2つのちっさい影が頭から突っ込んできた。


反射で躱す。

頭から床に突っ込むと思いきや、1つはそのまま胸に飛び込んできた。


おっと?

俺、今片足なんだけど?



「ピキュイ‼」



床に倒れた俺、その上のちっさいの、床に頭を滑らせたガキ。

無傷なのは当たり前のように俺の上にいるこいつだけだ。



「………おい、クロ」


「ピキュア!」



頭を擦らせたガキが不満げに体を起こし、何度もまばたきをする。



「え?知り合い?」


「あー……」



知り合いっていうのか。動物的な生き物に対して。

それにしても……額が真っ赤になって面白いことになってんぞ。



「こいつは宝石獣(カーバンクル)



黒真珠のような目をしたカーバンクルは鳴きながら体を擦り付けてくる。


やめろ、くすぐってぇな。



「かーばんくる?そんな動物がいるの?」


「いや、まぁ動物っていえば動物だけどな。こいつは…あー、伝説級?」


「…………ん?」


「はるか昔の種族戦争時の生き残り。人間が滅ぼし損なったやつ」


「えぇえええ!?」



はるか昔の種族戦争では、人間は人間以外のものを殺し尽くした。とはいっても牛や馬まで殺したら人間が生きていけない。ということで、殺したのは力を持つ生き物全てだ。


カーバンクルもその例外ではないんだが、まぁちっさいし?なんとか生き残ったんだろう。



「まぁそれも終わりだ。こいつが最後らしいから」


「…そうなの?」


「死んだら何処かでティナになるのかもなぁ」



こいつが人間を恨みまくってるとは思えねぇけど、そういう仕組みなんだから仕方がない。



「なんでゼロさんのペットになってるの?」


「さぁ。会った当初は殺そうとしたんだけど、こいつどんな目に遭っても逃げねぇし避けねぇし攻撃もしなくてな。ただただついてくるからいつの間にかこうなった」


「……………」



そんな目で見るなよ。


あの頃の俺は余裕がなかったんだ。こんなイタチもどきを何度も殺そうとするとか、流石の俺でもどうかしてると思うが、あの時は…いろいろぶっ飛んでたからなぁ。


あ、クロが噛みつきに行った。

ペットってのが勘に障ったらしい。



「それより、クロ」


「ピキュ?」



ガキの手足を数ヶ所噛んで満足したのか、調子のいい返事。



「わからねぇか?俺、怪我してんだよ」



その得意げな小さい頭をがっちりと掴む。手の中にすっぽりと収まり、クロはバタバタと暴れたが、まぁ放すはずもなく。



「俺じゃなかったら傷開いて死にかけてるぞ?あ"ぁ?」


「ビギィィィィィ~‼」


「ゼロさんやめたげて!」



うっせぇな。衝撃逃したからいいものの、直撃してたら俺でも傷開くだろ。

この狐かリスかイタチかよくわからねぇ珍獣が。お前の鼻は飾りかよ!


何度か振り回して満足したところで放してやると、クロは目を回しながら背中の荷物をおろした。そのまま手先で器用に荷物を広げ、目当てのものを掴む。



「…いらねぇ」


「きゅっ」


「わかるだろ。縛られんのは嫌なんだよ」


「キキュッ!」



伸ばした短い手を戻す気はないらしい。

………ちっ。



「ゼロさん、それって……」


「ぶっ壊したピアスの代わり」


「ん?なんでこんなタイミングで…」


「そういう奴なんだよ。あいつは」



はー、仕方ねぇか。あいつとずっと連絡途絶えさせてもしょうがねぇし、それで生きづらくなるのは俺の方だからなぁ。


クロから受け取った箱を開けると、中には前と同じピアス。


音を聴くにも音を届けるにも位置的に適しているのは否定できないが、毎度毎度ピアス穴空けるのめんどくせぇんだよ。ティナの再生力のせいですぐに塞がっちまうから。


今は別に耳につける必要もない。魔力を注いで置く。



『…………生きていたか。どうやら合流したようだな』


「無事ではないけどな」


『ほう。では自分で壊したわけではなかったか。そろそろ縛られるのが嫌だとか言いだしかねんと思ったが』



さっき言ったばっかりだな。



「いいから依頼した物をよこせ。今回の仕事は割にあってねぇ」


『わかっている。依頼主が安全な所へ移動させたようだ。ティナ持ちの限界を悟ったのだろう。最上階、突き当たりの部屋の隠し扉だ』


「だとさ。ガキ」



急に言われて、首をこてんと傾げるガキ。



「とってきていいってこと?」


「この足じゃきつい」


「はい。いってきます!」



跳ねるように走り去っていった。急げっていった覚えはねぇんだけど。



『苦戦したのか?』


「まぁそこそこな」


『ふむ。お前でも本調子に戻らないと辛いか』


「俺を何だと思ってんだよ、お前は」



どこぞの死人じゃねぇんだから、疲れもするんだよ。俺は。



『不便なティナだな。どのティナよりも受け入れたときには死に近づき、力を使うにも消費が激しく、挙げ句魔力の回復は夜の間のみ。設計ミスにも程がある』


「神にでも言ってろ、そんなことは。で?要件はなんだ。コレを渡すためだけにクロを寄越したんじゃねぇだろ?」


『クロが出向いたのは本人の意思だ。傷が回復し、すぐにでもお前に会いたかったのだろう』



………まぁそうかもな。さっきから離れねぇし。



『だが、要件があること事態は間違いない。


ゼロ、情報が入った。信憑性も薄く即座に行動を起こすにも難しいが合致率は悪くはない』


「わかった。すぐそっちにいく」



今から飛ばせば…7日くらいで着くだろ。あ、クソガキがいたか。とりあえずここ置いとくか。



『言っただろう?すぐに行動を起こすには難しいと。急いでこちらへ来たところで無駄だ』



予期してたのか。分かりきったかのように銀は続ける。



『まずはそこで休み、必ずアビスシードを連れて戻れ。お前にとってのそれの重要度があがった』


「俺の?」


『そうだ。私の目的はアビスシードの研究であり、最悪死体でも構わないのだが、お前にとっては違う。ゼロ、情報の所有者はアガド牢獄にいる可能性がある。そこで棄てられた罪人だ』



……最悪だ。


この前俺が潜ったせいで、あそこの警備は固い。その上でもう一度潜れたとしても、アガドの罪人じゃ死んでる確率の方が高い。


あーあ、ふざけんなよなぁ。だからといって行かない訳じゃねぇけど。



『その調子では、潜入できたところで話にならん。しばらくゆっくり療養しろ。屋敷の管理、食事の手配はこちらで行う』


「……あぁ」



通信を切る。


それを見計らってクロがピアスを咥えて持ってきて器用に俺の耳につけた。嫌だが、しょうがねぇ。



「クロ、走れるか?」


「ピキュ!」


「鮫野郎にこれを渡せ。どうせどっかの港にいる」



クロに渡したのは、空の煙草。


意味を理解したのか、クロはそれを背負い窓へ飛び出した。



「あれ?もうお話おわったの?」


「おー、ちょうどよかった。お前にも仕事だ」


「?」



大きな袋を担いできたガキ。どさりと乱暴にそれを下した。



「この屋敷にちょうどいいもんがあってな」



傍の本棚から分厚い本を軽く放った。



「2日で極めろ」



受け取ったガキは絶望的な表情で言葉もでないようだ。動揺をありありと目線で表し、救いを求めてくる。


手に持った本のタイトルは「礼儀作法教本」



「じゃ、がんばれ」



放心状態のガキを外に出し、俺は再びベッドへ横になった。




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