03
「助けてくれ、ねぇ……」
ガキは嫌いだ。うるせぇし、何より邪魔。
さっき犬と一緒に殺せたらよかったんだが……。
まったく、変な髪色してるせいで面倒なことになった。
今殺したって構わないが、こんな汚くて臭い所まで来て、何も収穫がないのも馬鹿げた話だし、生きたなら利用する方がいい。
さて、どうするか。
このガキ。どう見てもここを探りにきた同業者には見えないし、刃物の類いもなし。
まず見た目がおかしい。手足の細さから見ても筋力があるとは思えねぇ。
なら、こいつの正体はなんだ。
……まぁ考えても無駄だな。答えを持ってるのはこいつだ。
「条件がある」
今にも死にそうなガキは、驚いたように顔をあげた。見てくれの汚さとは反対に、目だけは光をとらえて輝いている。どうも、やりづらい目だ。
「命は助けてやる。かわりに情報のすべてを寄越せ」
ガキ一人とはいえ、荷物を抱えることになるのは間違いないが、そのくらいはどうにでもなる。使えるものを使う方がいいだろ。
「知っていることを話したら助けてくれるの?」
「そういうことだ。どうする?」
ガキは何も躊躇わずに、首を縦に振った。
……やっぱりただのガキ、か。普通なら警戒したり、損得を考えるはず。こんなに早く決まることはない。
とりあえず見た目を変えて、誤魔化している可能性もないと見ていいだろう。
嘘も言ってないし、だますつもりもないらしい。
「じゃ契約成立だ。情報を対価として命は保証してやる」
遠くで犬の足音が聞こえる。
血の臭いを嗅ぎ付けたか、飼い主から指令が出たか。まぁあんだけ派手に断末魔が響けば当然だろう。
そろそろ動かねぇと。
「あの!」
ガキは慌てて走り寄って来た。
完全に射程内。さっき自分に向けて剣を振ったやつに、よくそんな無防備で近寄れるな。
さっきの剣は捨てたけど、まだいくらでも凶器はあるし、むしろお前なんぞ武器が無くても余裕で殺せるんだが?
「なんだよ。言っとくが俺のことについては話さねぇぞ」
「名前は?」
…………そこかよ。
「ゼロって呼ばれてる」
「わたしはイーリス。よろしくお願いします」
ガキは勢いよく頭を下げた。白に近い髪が揺れる。
特に何も考えずその髪を手に取った。
「ふぇ?」
「………変な色だな」
「うん。よく、言われる」
派手でもなく、地味でもなく。白に近い桃色がかった金髪。
………ち、嫌なもの思い出す。
「ちょっと待ってろ。一歩も動くな」
敵に場所はバレたし、もう追っ手がかかってる。痕跡とかどうでもいいな。とっととずらかる方がいい。めんどくせぇし。
「銀。謎のガキを拾った。一番近い出口を教えろ」
『どうした?やけに疲労感のある声をしているな』
「ガキは嫌いなんだよ」
『しかし貴重な情報源だ。持ち帰れ』
「俺に命令すんな。早く道だけ教えて下がってろ。場所割り出されても知らねぇぞ」
『ふむ、いいだろう。少し待て』
はぁ、まったく。めんどくせぇ。
「あ、の。ゼロさん」
「あ?黙れ、クソガキ」
ガキは小さく悲鳴をあげて黙りこんだ。が、意を決したかのように口を開く。
「ゼロさん。敵が、きます、よ?」
「あ?」
緊張した面持ちで申し訳なさそうにガキが言葉にした瞬間。
辺りが真っ赤に燃え上がった。
あーあ。思ったより早かったな。
「ふぁぁぁあ!!」
俺はガキを肩にかつぎながらマスクを引き上げ、炎の中を突っ切った。魔法を唱えた主の首を一瞬でへし折り、そのまま走り去る。
まぁたぶんこっちだろ。
『ゼロ。そのまま直線に出口はあるが、恐らく厳重にかためられている。……その様子なら問題ないな』
「あぁ。ねぇな」
『私は先に引き上げる。健闘を祈る』
「は。そりゃ、どーも」
厳重?上等だ。
今は存分に暴れたい気分だ。
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