06
「東の国の王は行方不明。恐らくは監禁、または軟禁。上層部にもアルテマの手が及んでいる、か。……ふむ」
「どうだ。そっちで何とか出来そうか?」
狭い飛空挺で銀は腕を組む。
今回は色々と銀の組織の手を借りすぎだ。できれば控えたいところだが、こっちものんびりはしてられない。
俺の体を考えると。
「どういう手段をとるかだな。アルテマの潜入者を見つけ始末するか、更なる権力で口出しが出来なくするか。どれも時間がかかる」
「あぁ。いちいちアルテマ探しなんざやってられねぇ。とにかく王を見つけたい。潜入が得意な奴なら送ってある」
「ならば、捜索の手段とその後の保護か」
「保護もいい。一応いるし、勝手にどうにかするだろ」
「ふむ……」
ここでは銀は力が使えない。
あるのは、その常識外れの知識量だけだ。
俺も記憶力なら、生きてから死ぬまで忘れたものはないくらいの自信はあるが、こいつの計算や統計学、確率論だとかの諸々にはついていけない。
あと、龍の力を混ぜた技術とな。
「連合の者に城の構造図を渡させる。そこに案内を書こう」
「いる場所がわかるのか」
「確率は高い」
城の構造図が手に入るのも実際どうかしてるがな。
「その協力者をここに呼べ。その者の実力を測れてはないが、1人では不可能だろう。その場合は……」
「俺が行く」
「ああ。それならば磐石だ」
政治は王一人でしているわけではないが、誰がなんと言おうが発言を通せるのも王だ。
国が混乱している状況だっていうなら、王に直談判するしかないだろう。
ま、直談判というか脅しになるが。俺が行く限り。
東の王は…まだそれなりに若い王だったか。
「銀。ルナティクスはどうなった。順調か?」
「何処ぞの奴が雑に切り裂いていてな。補修に時間がかかってる」
……ん。島を切り離すのに雑も器用もあるのか?
「あれでは地表がいずれ死ぬ。その調整を行っているところだ」
「裏はどうなってる?」
「裏と表は繋いである。島を動かす計画は難航しているが、ルナティクスは以前同様稼働中だ」
そうか。
なら、ルナティクスについては問題ないだろう。
表が生きれば、裏は死なない。
表が死んでも裏は死なないし、目的は達成だ。
「安心したか」
「まぁな。俺が言いだしたことだし」
「ほう。まるで終わりを想定しているかのようだな」
………こいつ随分鋭くなったなぁ。
「わかっている。アルテマのことのみに専念したいのもあるだろう」
「……なぁ、銀。なんでお前は俺にそこまでこだわる?」
正直、協力者として俺は面倒だろう。
隠し事は多いし、誰も信用もしない。
実力はあるが、堕ちかけたティナ持ちである以上不安定すぎる。
それに実力行使なら、連合だけでも十分だろう。
俺みたいな異常な勢力を相手してるわけじゃない。
それに、俺はこいつの目的である、龍の友人の遺体探しも人間以外の保護も協力できない。
「言っとくが俺は死ぬぞ」
「……まったく。死ぬぞ、ときたか。私に人間を説いた人間が、ここまで人間らしくないと呆れてくるな」
「俺に生き物かどうか聞いてきた奴のセリフか?それ。それに俺は人間を見てきて知ってはいるが、人間らしく過ごせたことがねぇよ」
「説くならば実践をしろ」
「俺には要らねぇ。求めたら早死する」
俺の生徒は和やかに笑った。
こいつとはいつもこんなかんじだな。
「ゼロ。答えは単純だ。私はお前を気に入っている。知人として、友人として。お前がそうでなくともな」
「悪魔の俺を?物好きだな」
「悪魔の、ではない。お前自身をだ。私は悪魔は好かん」
……は?
「悪魔嫌いだったのかよ」
「……いや、これは、口が滑ったな」
口滑るとかあるのかよ。人知を超えた存在が。
口元抑えたりしてわざとらしいんだよ。
「悪魔という種族は、龍として見てきた上で、私とは合わない。あれは時折常軌を逸している」
「……お前が俺に構うのは、悪魔のティナだからか、研究対象かなんかだと思ってた」
「破壊の力を利用したのは否定できん。ティナは即刻滅ぶべきだろう。誤った、狂ったシステムだ。
驕るな。私にとってお前のティナはそこまで価値のあるものではない。
あるのはお前自身だ。それを忘れるな」
忘れるなって言われてもな。
あんまり考えたこと無かったしな。
「悪魔のティナは生き物に嫌悪感を与える。または危機感、恐怖感だ」
「知ってる」
「だが、お前はそうでは無い。少なくともそうでない生物が多数いる。それはお前の持つものだ」
「……」
「私がどれほど研究したところで、それが何かという答えは出ないだろう。
誇れ、ゼロ。お前は既に悪魔の性質を超えている。だからこそ、まだゼロとしてここに入れるのだろう」
……なんというか。
単純な疑問だったのをこう返されるとはな。
鬼といい、こいつといいなんだよ。
いよいよ本当に死ぬのか、俺は。
「……そういうことは早く教えろよ」
「聞かなかったからな」
まぁ聞かねぇよな。
「はぁ……」
なんか、色々ありすぎだ。
起きる感情をなんて言っていいか分からない。
嬉しいのかもしれない。
同時にひどく、うざったい。
そんなこと言われても、俺は悪魔のティナで俺は最初から"俺"だけではなくて、今の"俺"は悪魔のティナに影響されてないなんて言えねぇんだし。
鬼が言おうが、銀が言おうが。
俺は、本当の俺を知らないし、知ることは無い。
知る手段はひとつ。
「過去を求めるのは当然のことだ」
ち。読みやがった。
「協力は惜しまない。長く生きることにもだ。
理由は、私はお前を気に入っており、死んで欲しくはないからだ。
信用しろとは言わないが、その事実は知っておけ」
「…………わかった」
長い付き合いだ。わからないわけじゃない。
銀が、俺の敵になることはない。