03
いつものこと。
兵士たちはため息をついた。
終わらない戦争がいつまでも続いている。
疲弊とまでは言わずとも憂鬱ではあった。
国を守るため兵になった。
しかし彼らの敵は国の民間人。
民間人というには戦闘種族すぎるのが難点だが、扱いはそうだ。
「進め!」
指揮に従い、足を進める。
いつもの合戦場。
そこにいつもいる黒髪の一族の姿はない。
代わりに、深くフードをかぶった男がいた。
「あー……」
男は出会うなり、喉を抑えて調子を調べる。
そしてその口から、国歌が流れた。
おぞましく、身の毛がよだつほどの魔の調べ。
まるで戦場というこの場所が舞台かのようだ。
既に戦いは始まっている。
のに関わらず手を出すものは誰もいなかった。
誰よりも国を想ってこの職に就いた。
しかしこれほど国を想って歌えることができるだろうか。
歌は終わる。
動ける者はいない。
「しばらく前より、休戦の意思を提示している。結論がないままでは、こちらも剣は抜けない」
響く声は先まで届いた。
「こちらは回答待ちだ。退却を要請する」
休戦?退却?
迷う暇もなく、怒号が響いた。
突撃の合図だ。
こちらの魔法は音もなく一瞬で打ち消される。
そして歌の男が片手をあげた瞬間、黒島の人間たちが現れた。
歌が変わる。
高揚し、血が躍る音。ごく当たり前のように黒島から咆哮が響く。
それすら音楽に変え、獣のように黒島は襲ってきた。
手に持つのは木刀。
剣は、抜いていない。
「おい!指揮官が一番前にでるんじゃねぇ!」
その声を聴いて目を疑う。
先頭どころか飛びぬけて前進してくるのは、あの男だ。
彼は歌うのをやめない。
そして兵士のすぐ隣で。命に触れる距離で歌う。
まるで死の宣告のように。
「ひ」
さっきの歌声はどこにいったのだろうか。
ささやくように、忍び込むように、呪い殺すように。
士気が下がる。無暗に暴れるものさえ現れた。
自然と歩みが止まり、下がる。
その隙にと木刀は嵐のように降り注いだ。
気づけばこちらの指揮官はいない。
相手の指揮官は下がり、同時に歌は熱の歌に変わる。
先ほどの冷気が嘘のように、灼熱のように燃え盛っていた。
同じ歌としてつながっているのが理解できない。
ここは戦場ではなく舞台。
この男の独擅場だ。
敵ながら、聞き惚れてしまう。
なんて。なんて歌なんだ。
その歌は突如として止まる。
歌い手を見ると、赤い髪の背が見えた。