06
「それにしても、手前は変わらねぇなぁ」
「お前が変わりすぎだ。死体が歩いてるみたいだぞ」
「はっはっは。どれだけ剣を鍛えても、病には勝てねぇなぁ」
こいつに会ったのはそこまで昔の話じゃない。
戦争が始まる前にはなるが、その時は病気でもなかった。
黒島の剣士たちという、特殊な戦闘種族が気になって来てみたら、突如斬りかかってきたのがこいつだ。
「ほれ」
差し出された杯を受け取り、高い音をならす。
この島では縁側と呼ぶところで、月を見上げながら酒を飲んだ。
ん、黒島の酒は質がいい。
「そういえば、龍剣とやりあった」
「ほお?で、どうだったんだぁ?手前より強いかぁ?」
「五分」
「そうかぁ。国の奴らもやるもんだなぁ」
「いい腕なのは間違いねぇな」
「して、どうだった。勝ったか?」
「勝ち負けって話じゃねぇが、俺とは圧倒的に実践経験が違う。素振りしてる余裕のある奴らに負けはしねぇな」
そうかそうかと頷く。
様子を見る限り、1年ももちそうにないな。
「で。ここでは何があったんだ」
「何って、相変わらずだぞ?戦が起こって、戦してただけだぁ」
……はぁ。あいつも苦労するな。
「ま。俺は約束通りガキを届けたし、イリスの件も終わったし、あとはここのどこかにいるアルテマについて調べたら終わりだ。残りの兄弟については片手間に探しといてやる」
「おお。ありがとうなぁ」
「お前らは勝手に毒でも撃ち込まれて死んでろ」
「ぬ。毒?毒ってなんのことだぁ?」
知るか。めんどくせぇ。
「軽く聞いただけでもわかるほどの異常に、誰も気づかないとはな。この島の連中はただの能無し集団かよ」
「おい。島を馬鹿にするかぁ?死神」
「お前もそう思うよな」
誰も見えない空間に空の杯を投げる。
それは以前同様空中でとまり、殺していた息がやっと吹き返した。
「…ゼロさんにはかなわないなぁ。もう色々わかっちゃったのか」
僕は何も言っていないのに、と盗人は小声で呟く。
隣の死にかけは、口が開いたままのことにも気づいていないらしい。
「お久しぶりです。父上」
俯いたまま、盗人はそう言った。