09
黒島についての文面を眺めながら、おじさんはふむふむと顎髭を撫でる。 今ここにいるのは、わたしとゼロさん、 黒島 3兄弟にジルおじさんだ。
「……なんでお前がいるんだよ! いらねぇよ!」
ゼロさんがばしんとその頭を叩く。 そう、おじさんは子供を解放した時点でお別れのはずだった。
「うるせぇ! せめて東まで連れて行けよ!」
おじさん曰く、東にはいつものあの二人がいるらしく、合流して適当に報告書を流すんだとか。 生き延びた、という流れも他の国に移動していたら説得力があるし。
リオたちはアガドルークで別れた。
子どもたちを見守ってから、ルナティクスに戻るらしい。
というのも、東は九尾の住んでいた場所ならしく、狐を祀ってるところや恨んでいるところが多いから諸々と面倒みたいだ。ついて行きたいけど迷惑になると、はっきり言っていた。
ちなみに船を所有していた奴隷は、手筈とおりにジルおじさんが捕えたんだけど、あの元奴隷商さんに釈放金を払ってもらい解放された。 なんでも奴隷商を辞めさせて、自分のところで働かせるらしい。
しかも身寄りのない子供たちも全員回収。 行きたいところに行け、行けないなら養ってやるというスタイルだ。
ゼロさんは、恩を売りたいからだとばっさり切って落としていたけど、結果的に奴隷で商売をする人が二人もいなくなったんだから、わたしは満足だ。
「船を手に入れたはいいが、結局黒島への上陸方法だよなぁ」
ジルおじさんが唸る。 わたしのことなのに、こうして真剣に考えてくれるのは素直に嬉しい。
おじさんは戦争に紛れるという作戦に反対なのだ。
そして地味にゼロさんが船を操舵できるのが面白い。いらないでしょ。その技術。
「あたしやニキチが間に立つ。 黒髪に黒い目は黒島の人間の証。きっと攻撃しない」
「お嬢ちゃんよ。 それは違う。今の黒島は自分のところに来る船すべて撃沈させる徹底っぷりなんだよ」
「......そうね。 黒島は誰も招かなくなった」
撃沈、か。嫌だな。 わたし泳げないし。
なんとか力を合わせて島に行き着いたとしても、島の人たちにすぐ斬られそう。
「めんどくせぇな。いいだろうが。戦争に参加すれば」
「馬鹿野郎。 お前はあんまり殺しばっかすんな!」
「うるせぇなぁ」
日差しが出ているからゼロさんの機嫌は悪い。 この船は風を受けて進むものなんだけど、今風はないから進まないし、イチカちゃんも少々お疲れだから魔法も無理。
屋根はあるから直接日差しを受けたりはしないけど、きついものはきついんだろう。
あと、飛んでいくのと比べて、なかなか進まないというストレスか。
といっても陸路で行こうと思ったら、 東の国って相当違いらしい。 ゼロさんは飛んで移動が多いから、ゆっくりペースに慣れてないんだろう。
「ちなみにゼロさん、どうやって戦争に……というか国の軍に紛れるつもりなの?」
「あ?簡単だろ」
吸い終わった煙草をボッと破壊してゼロさんは言った。
「国王を脅す」
もうこの人だめだ。