06
なぜこの子がオレを助けようとするのか。
子供だ。 痛いだろ?
オレは赤の他人だ。
何も知らないし何もこいつにしてもない。
「泣かないでぇ」
お前が泣いてるのに、なんで泣くなって言うんだ。
なんで笑おうとするんだ。
というか、泣いてたか。
わからない。
オレにはわからない。
「どうしてオレを?」
オレは聞いた。
目をこすりながら杭を引っ張るこの子に。
「だって、悲しいって寂しいって言ってるもん」
子供はさも当たり前かのように、こてんと首傾げてそう言った。
「だからわたしはここにきたんだよ!助けに来たんだよ!」
オレはそう思っていない。
そう思わないようにしてきた。
願ってもないし、今もそれは変わらない。
何年も何十年にも何百年にも。感じる長い時を。
だからオレはその通り伝えた。
しかし子どもは笑う。
「そんなこと言っても、もうわたしが一緒に行きたいって思っちゃったからだめー!」
気を抜かれるとはこういうことなんだろうか。
オレは笑った。 意味のわからないこの子供に笑った。
そして思い出した。
オレがここに居続ける理由がないことを。
もう、守っていたものは失われたのだから。
「ちょっとどいてな」
腕を、杭が刺さっているまま引き抜く。
風穴が空くが思い切りやれば痛くない。 我慢できる。 それにこの穴は貫かれた時点で、どうしようもない。
「だめー!」
子どもが止める。 オレの血で汚したくなくて、来るなと手を振った。
それでも子どもは薄着を引き裂いて血止めをする。 涙は枯れないようで零れ落ち続けていた。
「痛い、痛いね。 ごめんね。 助けられなくてごめんね」
すると体に電流が走った。
これは、力だ。 ここにあるはずのないカ。
全ての生き物の力となるもの。動物も植物も虫も、すべての生き物が必要としている力だ。
もちろんオレにとっても。
傷が治っていくのがわかる。
訳がわからない。わからないが、この際どうでもいい。 脚の杭を引き抜き、長くなった髪をその杭で切り裂いた。
「お前、名前は?」
その子の手をとる。 泣きじゃくる子供は目をこすり、潤んだ翡翠の眼でじっとこちらを見つめた。
「わたしはイーリスだよ」
子どもはそう言った。