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体調崩して遅くなりました…(*T^T)
『殺さないであげて』
「あ?」
『右でも左でも、殺さないであげてね』
「……止める必要がお前にあるか?」
『たぶん、ないんだと思う。騙されたんだし』
「それなら俺の勝手だろ」
『うん。でもね、ゼロさん。殺してもしょうがないでしょ?何もないのに殺したら駄目だよ』
「蟻を踏み潰すのに良いも悪いもあるか?」
『蟻とは違うよ。その人は見えてるでしょ?蟻だって見えないから踏んでも気にならないけど、見えてたらそんなことわざわざしないよ。見えないから、生きてることがわからないから殺してる感じが無いんだよ』
「………」
『前に言ってたよね。理由のない殺しはしないって。それと同じだよ、ゼロさん。意味がないのに殺すのは、簡単に命を奪うのはよくないよ』
町を出るときに、外は大雨になった。
「ゼロさーん!」
町の人から……町の人で正しいのかわからないけど、あの人たちからもらったリュックにたくさんの財産を貰った。限界ギリギリのお金ならしいけど、物も入ってるから具体的な金額はわからない。騙されている可能性も、まぁ否定はできないけど、あんだけゼロさんに怯えていたのに、そんなことできないと思っておく。
なんでも、町の人はみんな罪を償った人たちばかりで、職もないせいで盗賊まがいのことをするしかなかったらしい。
罪を償ったのに罪を犯して何の意味があるのか!って言いたくもなったけど、こうするしかなかったと泣きながらいうオトナたちを見て馬鹿らしくなってやめた。
生きるための食べ物は山にあるし、こうして空から水も降ってくるのに贅沢な考えだな。と思って。
「ゼロさん、ちょっと待って!」
雨が降る中、無言で出発したわたしたち。
新しくもらった靴はグショグショと音がするし、上着も少し濡れてしまった。小さな傘では完璧には防げない。
で、ゼロさんはというと、傘もフードもなく、濡れながらすたすたと歩いていく。
「風邪、ひいちゃうってば!!」
その言葉でようやくと待ってくれた。
走ってなんとか追い付く。
「そんなに先々いかないで。ほら、雨濡れちゃうし、風邪引いたら大変だし、風邪ひかなくても寒いでしょ?」
その時だ。
黒い残像を残して、一瞬で締め上げられる首。
息が、できない。
血が凍りつくような寒気が走った。
あっという間に足元から地面が離れ、ゼロさんに首を絞められてるのだとそこで初めてわかった。
「ひっ………ひぃ……ぜ…」
片手で持ち上げられ、声も出ない。
苦しい、目の前がぼやけていく。
死ぬ、苦しい、クルシ、イ………。
「………だよなぁ」
ゼロさんは自嘲するかのようにふっと笑い、そのまま手を放した。
「うぐっ!げほっげほ……ふっふぅ、ふぅ」
着地も出来なかったわたしは雨水の中でもがいた。服や顔に泥がつくけど、そんなことに気にしている余裕はない。全てが突然すぎて、頭も体もついていけない。
「お前は正しいよ、クソガキ」
わたしを見下すゼロさんの目に光はない。無情な、真っ暗な目だ。
「理由もないのに殺しはするな、意味のない殺しはするな。普通の人間には言われなくても当たり前にわかってることだ。そもそも殺し事態がいけないことだって体に染み付いてる。
でも、俺は違う」
睨んでいるわけでも、怒っているわけでもない。
ただただ、感情のない顔だ。
「こうしてお前を殺しかけても俺はどうとも思わねぇ。女が死のうが、子供が死のうが、大量に死んでいようが、死体が転がったとしか思わねぇ。そんなことくらいで罪悪感を覚えるような、普通のやつじゃねぇんだよ。俺は」
「そんなこと……」
あるわけがない。
はじめから、人間や生き物を殺すことに、何も感じないわけがない。
アガドで生きてきてもわたしは慣れたりはしなかったし、あのウラガでさえそうだ。あのアガドの人間でさえ、殺し殺されるのは生きるためで、それでもその行為を続けて狂っていく。
楽しいから、で殺す人がいるのは知ってる。でも、何もないということはない。
「ねぇよ」
ゼロさんの声は冷たかった。
「俺はなにも感じねぇ。後悔したことも、恐怖したことも、戸惑ったことも不快感も違和感も、ない。始めから一度もな」
「ど……」
どうしてそんなことを言うんだろう。
そんなはずないのに、絶対ないのに。
だって、ゼロさんは同じ人間だから。
「………ま。やめろって言うなら考えてやるよ。俺は別に殺しを楽しんでるわけじゃない。殺さないとまずい奴はいても、殺したい奴は少ないしな」
最後に頭にぽんと触れた手は優しくて、何だか悔しくて泣きたくなった。
それをこらえたのは単なる意地だ。
「だから、殺すの。やめたの?わたしが言ったから」
「いや。殺そうとしてることをお前に悟られたのが苛ついたからかな。どーでもよくなった」
どこまで気分屋なんだか。
「ゼロさん」
「あ?」
「首絞めたの、謝って。苦しかった」
「折られなかっただけでマシと思え」
ゼロさんの手を借りて立ち上がり、なぜかそのまま抱えられた。担ぐんじゃなくて、お腹に手を回されて、脇に抱えられている。
「雨、うざったい」
背中に翼が現れたと思えば、途端に空の上だ。この浮遊感も慣れてきた。
「どうするの?」
既にずぶ濡れで何しても遅いとは思うんだけど。
「雲の上をいく。酸素は薄いが、毒素だらけのアガドで生きてきたなら問題ねぇだろ。たぶん」
「た、たぶんかー……」
それからしばらく空の旅は続く。
酸素よりも寒さに悲鳴をあげたのは、それから間もないことだった。
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