02
「...... ああ。 だよなぁ。 予想通りだ」
俺の手は銀色の剣に阻まれる。
二つの交差した剣は、そのまま俺の手を焼いていた。
「ルークっつったか?」
仮面の男は即座にその場を離れ、仮面女のもとまで飛びのく。 抑える気もない魔力に溢れている。 隠す気もねぇってか。
「る、ルーク・・・!」
「ビショップ。 下がれ。 相手が悪い」
「あなたにとっても同じでしょう?」
「命令だ。お前の手には負えない」
仮面の男は剣を構える。
雷が刃を纏い、 闇夜に光をもたらした。
光はやめろよ。 せっかく紛れるようにしたのに。
「….....その姿はどうした」
「あ?」
「目の前にいるのにいないようだ」
前から構想はあった。 俺の技を組み合わせることに。
ただそれをすることでの負担を考えると、 手が出せなかった。 相当、魔力に余裕でもなければ。
体という概念を壊す。 ただ、物理を通り抜けるまでやれば時間制限がある。 だから、あくまで姿を、 気配を、生命力を消す。
魔力という力を壊す。 ただ、使えなきゃ意味がない。 だから、あくまで外に出ていく全てを。 あふれ出そうな力を全て。
最後に相手の認識を壊す。 精神をぶっ壊すまではしなくていい。少しの勘違い、認識の相違を起こす。
髑髏の仮面はニが持ってきたものだけど、あってちょうどよかった。
結果的に存在感の欠片もない死神ができあがったんだから。
雑魚や大群には向かないが、こいつほどの手練なら有効だ。
魔力を見ても当てにならない。姿を目視しても同じ。そして、その認識さえ曖昧。
ただ……あれだな。 もう闇を放つ余裕すらねぇな、これ。 見た目死神なのにすごく肉弾戦。 あとは……覚醒状態の重力のアレだけか。
「下手に破壊の力を放たれるより脅威的だ」
「 所詮あれば集団破壊と雑魚の掃討に使うもんだからなぁ」
闇の破壊は、攻撃力は馬鹿みたいに高い分、嫌でも相手は防御する。魔法で相殺できるだけ、得はしない。 あっちは魔法を連発できるけど俺はそうじゃねぇし。
「退いてくれ。 こちらにも譲れないものがある」
「お前こそどけよ。 そこの女は殺す。 最重要事項だ」
仮面は剣をおろした。
何考えてるのか、仮面の下じゃ感情も読めない。
「ビショップ。 何を知った?」
「......報告はキングにするわ」
「時間がかかりすぎる」
「そんなことはいい。 ルーク、 この男は、ゼロなの?」
へぇ。こいつわかってなかったのかよ。
それほど今の俺は普通と違うってことか。
「ビショップ」
仮面の男はその刃を女に向けた。
「命令だ。 何を知ったか答えろ。 そして、 答えた後にそれを捨てろ」
…..…..は?
「拒否するわ。 ルーク、 あなたと私は対等よ」
「この男が関するところでは対等じゃない」
「...なら、こいつは!!!」
双剣が光る。 女の仮面にうすい切り傷が走り、男は再び切っ先を向けた。
「最後だ。 ビショップ。 コマは指示に従え」
ビショップと呼ばれる女は、しばらく口を閉じ、それからここ数日の出来事を話す。
感情のこもらない声から事実だけを述べていく。 ほとんどはイリスについてだった。
ああ、やっぱりな。こいつ馬鹿じゃない。
木を操る力じゃなくて、対象の力を増幅するものだと認識してる。
イリスは願いという形で木に力を送っているが、意思の無い木樹が勝手に成長したり自由 に動くのは本人がそのように力を送っているからだ。 無意識に近い形で。
見た目なら木を操ってるようにしか見えねぇのに、魔力が見えるヤツはこれだから……。
一度見ただけでそれを理解したってことは、 実力者なことは確かだろう。 少しここから離れるのに時間がかかりすぎてるが、状況の理解と、訪れる施設が破壊されていることで遠回りになったようだ。
「以上。記憶の消去に移る」
「その後に2時間休め。 適当に運ぶ」
「...... どうせ消すから最後に聞かせて。 そいつは、あいつなの?」
女は殺意のこもった目でこちらを睨む。 俺と同じように魔力を感知させないこいつが、ばしばしとわかるほどの魔力が吹き荒れさせている。
こいつの魔力量も尋常じゃないな。 仮面と同じで。
「……ビショップ」
男は答えなかった。 それが答えだと、女はがくりと頭を垂らす。 仮面の下からは唇を切ったのか、赤い血が雪に落ちた。
「消去、開始」
女はそれだけ言ってそのまま動かなくなった。
「……これでいいか?」
「いや、馬鹿かお前。 記憶を消せって言って消せるかよ。 機械じゃあるまいし」
または、俺じゃあるまいし。いや、俺でもできねぇよ。 たぶん。
「できる」
仮面野郎は堂々と言った。
……ち、嘘じゃねぇか。 いや、でも俺にこいつを生かしておく利点ってあるか? ……過去の俺を知ってるやつの一人か。くそ、若干利点があるな。
「1つだけなら、何でも答える。 これで対等か?」
「......お前」
「考えそうなことは大体わかる」
男が近づく。剣は雪に突き刺して、 それでいて俺の間合いに。
たぶん1秒もかからず首をとれる。 そこで男は白い仮面を外した。
同じ年くらいだろうか。 軽く動きのある茶髪と金の目。瞳孔は、 赤。
左目にくっきりと残った切り傷の下には刻まれた文字があった。 LXIV。 意味は64。
「お前には、嘘を言わない」
ずきんと、頭が痛む。
俺の体はこいつを知ってる。 覚えている。 そういうことか?
「...... アルテマの目的はなんだ。 64」
俺は問うた。 男は機械的に即座に答える。
「アルテマの目的は絶対的な力、完璧な能力、 最上で最強であること。 それだけだ」