06
ゼロさんがきた。
と思ったら、誘拐かと思う速さで連れ去られた。途中ありったけの食料とか布とかを買って。
なに?どうしたの?
そんな説明もなく、辿り着いた先は、わたしの力を最大限に活かすべき場所だった。
「うっめぇえええ!!」
食べ盛りなのにやせ細った子供たちにとにかく大量に食べさせる。同時に病院食を作って、病気の子供に食べさせる。
は、つぎは薬か。
「ゼロさん!子供たち全員にバリッと!!」
「おーい、お前ら。食ったやつから並べ」
お得意の不衛生消えろ破壊を全員にしてもらい、部屋も綺麗にしてもらう。
それから黒髪の女の子と話しながら、片手で子供を放り投げてた。
遊んで、あげてる、のかな?
「闇の帝王!頼みがある!」
「いやだ」
「鍛えてくれ!先生!」
「いやだって」
「お願いします!!」
お願いする前に木剣で突撃するニキチくん。
やだと言いながら簡単にそれを弾くゼロさん。
もはや見てすらない。
「イチ。まず、お前らに契約は重すぎる。ガキだからな」
「でも、サンロのこと……」
「あぁ。だから、簡易な約束、だ。守ってやる。生きてるなら助けてやる。殺すようなことはしない。だから、俺の存在とイリスのことをバラすな。ここにいるガキ全員だ」
「……それは契約と何が違うの?」
「お前の条件で契約を組むなら、バラすなだけじゃ済まねぇんだよ。だからっていったって、ガキのお前らに期待できることはねぇし、親も死んでるっつーんだし、大人になるまでは俺が待てない」
イチカちゃんは暫く考える。
一瞬でイエスと言わないのは流石だ。脱獄したときのわたしは……よくわからないのに速攻オッケーしたもんな。うん。
「……ゼロにメリットがない。でも、さしだせるものもない。うん……」
「そういうことだ。どうする?」
「……故郷に帰りたい。みんなにも生きる場所が欲しい。いつか、力になる。助けて欲しい」
「それは約束しねぇが、俺はわざわざ殺しも放り捨てたりもしねぇよ。俺の優先事項の邪魔にならねぇなら、手助けくらいはしてやる」
「……なぜ?」
「一応助けてもらったからな。あの時。放っておいたところでどうもなかったろうが……ま、より安全だったのも間違いはない」
「でもこんなに今助けて貰ってる」
「それをやってるのは俺じゃなくてコイツだ」
顎でこちらを指す。
資金源は全部ゼロさんだけどね。
「ま、難しい話はなしだ。とにかく俺とこいつについて、何も情報をばらすな。ガキ全員な。その代わり、殺さないし、気が向く範囲で助けてやる。いいな」
「…………うん。ありがとう、ゼロ」
ゼロさんは、色々道徳がぶっ壊れてる。
幼い時から殺し合いが普通で、その……倫理観を正しく持てというのが難しい話なんだけど、とにかく人になにかすることに関して、殺すこと含め全く抵抗がない。
じゃないと生きていけない人生だったのだ。
だからといって、昔は……そうじゃないと言えないけど、今のゼロさんは何も無慈悲な訳では無い。
最優先にはしなくても、助けれる範囲で手を貸してくれるんだ。
「イリス。暫くここ任せれるか?」
「え。もうゼロさんいくの?」
「急いだ方がいい」
簡単に事情は聞いた。
子供たちはみんな誘拐されてて、別の場所にまとまって移動中に逃げ出したのだと。
黒髪の子供3人組が魔力が高く、戦闘力もあるらしく、隙をついて逃げ出したらしい。でも、その最中に兄弟の3番目の子と、ほか数人が捕まったというのだ。
「子供攫うって……」
「あぁ。あいつらだろうな」
アルテマ。
ゼロさんの目的とする組織。
記憶のないゼロさんの過去に関わっていて、何処よりも秘匿性の高い組織だ。
目的も不明な所だけど、そこでは何故か子供を集めているらしい。わたしの仲間で家族だった……シルクが組みしている所だ。
「1週間以上前の話ならしい。ま、徒歩で向かってたってことなら、近くに何かしらの拠点があるだろ。それを探してくる」
「で、子供たちを助ける、と」
「まだいればな。違う拠点に移動されてるかもしれねぇから、約束は出来ねぇけど」
ゼロさんは簡単に装備を整えると、用意していた保存食をまとめて抱えた。
ちょ。それここの緊急時用……。
「3日以内にはとりあえず戻る。ま、なにかあったら呼べ。どいつかに魔法あげてもらえば気づくだろ」
「3日……、そんなにかかりそう?」
「あの組織なら相当隠してるだろうからな」
そう言いながら干し肉を一切れ齧り、ゼロさんは颯爽と飛び去っていった。