01
「雪、 ひどくなってきた」
窓の外を憂鬱そうに見るイーリスは緑の目を細めてため息をつく。 借りた安宿は暖房設備が甘く、 手は凍えて赤くなっていた。
「めんどくせぇな。 これじゃ飛べもしない」
同じくため息をつきながら強い酒を喉に通すゼロ。
黒髪から除く濃紫の目は鋭利な刃物のようだった。
国の特性ともいえる犯罪大国アガドルークでは、こうして気を張っていなければ何が起きてもおかしくはない。
実際この宿もまるで何かを招くかのように、扉にカギさえかからなかった。
暫く滞在することになると判断したゼロは、衣服を脱ぎ捨て、身についた雪や滴を破壊する。 繊細なイーリスの髪が爆発することになった。 悪魔のティナの力、 破壊によるものである。
「お前の予定は?」
ゼロは早速酒を傾ける。
「まだ未定」
イーリスの目的は情報。 昔の仲間で離ればなれになっているウラガの情報だった。 アカド牢獄から犯罪者が飛び出した今、その犯罪者から牢獄内の情報が漏れだしているの は当然のこと。
そのなかにウラガの情報があるとするなら、近辺であるアガドルーク国内の可能性が高い。
だが、暫く国内を回るも情報はなかった。
時には犯罪者の集団に紛れてみたり、 奴隷商人と話しをしたりもした。
しかし、明確な情報はないままだ。
「別の国・・・行くべきなのかな」
イーリスはため息をつく。
ウラガは赤髪の男で、 通常の髪色が茶髪であることを考えれば珍しい髪色だ。 イーリスの色も同じく珍しいものではあるが、ウラガのそれも負けずと劣らない。 目にすれば、人とは異なる姿であるティナ持ちを疑われることだろう。 現に、イーリスの友人である吸血鬼のティナ持ちのルナも同じ赤髪だ。
目立つ見た目であるこそ、誰かは情報を持っていると思った。 しかし実際は手がかりさえない。
イーリスはベッドに顔をうずめた。
「ま。 お前はお前で考えてろ。俺は少し出てくる」
「え? こんな雪の中を」
「あいつとの定期連絡だ。ついでに他の連中にも情報聞いてくる」
あいつとは、銀の連合の当主でありイーリスやゼロと縁の深い、銀のことだ。 そして、他の連中というのはゼロと繋がりのある実力者たちのことである。
ゼロの持つ通信機は特殊で、小型化に成功したが魔力の消費が激しい。 稀に存在する魔力に見える人物やそういった道具のせいで、見つからないためにも人目を避ける必要があった。
「ここはアガドだ。 俺がいないときに寝るなよ。 殺されるぞ」
「は、はい」
ゼロは返事を待たずに外に出て行った。