03
わたしは服を買いに来た。
買いに来たはずだった。
「なんでこうなった」
テーブルの積み上げた先には踊るルナ。 次から次へと服を渡されポーズをとるリオ。
なぜか物凄く髪をいじられるわたし。
なぜこうなった。
「いやはや! お美しい! 当店の洋服をここまで着こなせるとは!」
「サインくださいーー!!」
「きゃーーー!こっち見たよこっち!」
「うちの専属モデルにならないかい!?」
「結婚してください!!」
こういう人間のやまである。
まあ原因はわたしだったりするのかもしれない。
わたしの服を選ぶにあたって、リオにも服を着せてみたのだ。
そして、それが外野に見られた。
それからは試着の嵐にお立ち台ができあがり、それを黙って見ていられるはずもないルナ にもドレスみたいな服を着せられ、 またそれで大盛り上がりで。
ただ、モデルといえばリオなので、これも着ろこれも着ろと服が舞っている。
コミュニケーションの苦手なリオは既に涙目だ。 涙目だけど仕事はこなすモデルなので、きちんとポーズをとって歓声があがって・・・。
なぜこうなった!?
「ぬう。狐娘め」
ダンスに飽きたのか、深紅のドレスを華々しく纏う吸血鬼が現れた。 不満げな顔してるけど、さっきまでノリノリで踊ってたじゃないですか。
「妾も色々着てみたいのだが、コレが邪魔でなぁ・・・」
ルナは目線を落とす。 何も言うまい。
さて、綺麗なリオもいっぱい見たしそろそろ助けてあげよう。 ちやほやされるのはいいことかもしれないけど、リオには向いてないというか辛そうだ。 いつティナの能力で姿を消してもおかしくない。
と思ってた頃合いで、だんだんと人が少なくなってきた。 救出も楽になったので支払いをしてから外にでる。 購入した以上に荷物があるのは気のせいだろう。
「あ」
リオがぴくんと顔をあげ、俯いて顔を上げて、 また俯いた。
ぎりぎりと歯が軋む音がする。
「り、リオ?」
「あたし、ほんと、だめなんだよ。 あいつ・・・ほんとに・・・」
そしてリオは物凄いスピードで走り出した。
もうこれはティナ持ちとバレるでしょうよ、という速さで。
ルナが慌てて追いかけようとして、 ぴたりと止まった。 そして、顔をあげて俯いて顔を上げて・・・。
ルナもマッハで走って行った。
「なんで???」
わたしも追いかけないわけにはいかず、もう見えなくなった背中を追いかけた。
追いかけて、 すぐにわかった。
二人がマッハで消えた理由も、店から人が徐々に消えた理由も。
歌だ。 誰の歌とかは割愛する。
もうわかっているでしょう。
迷いなく人ごみのなかに向かうと、屋根の高い場所に陣取ったルナとリオを発見したものの、そんな高さまで飛ぶことのできないわたしは回り込んで背後に回った。
なんでまたこんな路地裏なんかで歌って......。
子供とか猫とかいるんだけども!?
当人がちらりとこちらを見る。
すぐバレた。
でも歌うのをやめず、囁くような優しい歌を奏でていく。
涙でた。 言葉の意味もわからないけど、涙でた。
胸が痛い。 声も歌い方も全部が痛い。
弱弱しくないのに。 か細いわけでもないのに。なんだか痛い。
優しくて綺麗で、とにかく・・。
と、思ったら地響きするレベルの轟音がなった。 ゼロさんが壁をぶん殴った音だ。
「どいつもこいつも勝手に聞いてんじゃねぇよ。 そんなに聞きたいなら場所つくれや」
人々の心が一致団結した瞬間だった。
会場があり、 楽器があり、演奏家がいて、 観客席がある。
そこでゼロさんは声を張って歌った。
盛り上がる音と、吠えるような歌声で、街の人は夜中だというのに大盛り上がりだ。 踊って、笑って、一緒に歌って、 なかには泣く人もいて。
戦いばかりで怪我ばかりで、遂には限界さえ見えたというゼロさんは、とてもとても楽し そうだった。
これが、自分の本来の姿とでも示すように。