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破壊の魔王  作者: Karionette
復興編 第五章 ルフ
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08




なんでそうなったかは知らねぇ


知らねぇけど、ルフがアラクネと激突した。 俺や狐には目もくれず、ティナ堕ち同士の争いが始まる。 やることなすこと次元が違う戦いだ。


突風が吹く。


ルフの翼によるものもあるけど、 またあの狐が妙なことをしてる。

天候を操れるというのも意味がわからんかったが、今度は風まで吹かせるらしい。

できないからと諦めたくない・・・・みたいなことを昔から言ってた 。

だからって何でもできるようになるのは違うだろ。 限度がないのか、こいつは。


ま、空気中のカリタを無くしたいって考えは俺も同じだけど。



「ゼロ!!」



心臓の音がうるさい。 結構な量のカリタを吸った。 気分がいいとか悪いとかじゃなくて、意識が遠のく。

麻薬ってレベルか?これ。 俺の体は相当毒や薬に強いっていうのに。



「水。 のんで。 少しでも薄めて」



医者らしい言葉に素直に従う。 ここで酒寄越せって言ったら神酒(みき)でも出してきそうだし。



「体調は?ティナは?わかることを言って」


「 ……頭がはっきりしない。 気分は、 悪い。 ティナは……いつも通りうるさい」


「うるさいのはいいことだよ。 心地いいって思ったら、 それがカリタだから」


「……… とにかく頭が回らねぇ。 あー、 だから堕ちやすいのか。

俺の意思が弱まってる、から。 力の扱いもできねぇ と、思ったら、そういうことか」


「そう。とにかく何かしようと思わなくていいから、水だけゆ っくり飲んで」



何かしようと思わなくていいか。


傷で頭が働かなくなることはあるが、これは、脳みそが半分以上死んだかんじだ。


これで気分よくヘラヘラできる奴の神経が理解できん。



「お前は?」


「……あたしは大丈夫」


「そうか。よかった」



頭が回らない。 心臓が五月蝿い。

ティナはもっと煩い。


破壊しろ破壊しろ破壊しろ、と。

ただの幻聴が。

響いて。

響いて。

頭が働かない。


指先でべきりと音がした。

粉々になった小石を感じ、ぞくりと悪寒が走る。


頭が働かない。 解放感じゃない。

これが()()か。


我慢から解き放すんじゃなくて。

単純に、心地が良い。

指先にその小石が食い込み刺さる感覚さえも同様に感じる。



「トモダチー!!」



叫ぶような幼い鳥の声に意識がもっていかれた。

湧いた感情は、怒り。


誰が友達だ、鳥頭。 勝手に巨大化していってるし。



「トモダチに手をだすなー!!」



・・・くそが。


壁に頭を打ち付けた。 砕かれる壁に額から伝う血。 ぎょっとした狐の顔が目の端に見えたが構うか。


ティナ堕ちしたくせに、むしろティナになったくせに、何も変わらな い鳥がそこにいて、俺はクスリごときになに揺れてんだ。 しかもよく見たらその蜘蛛死んでるだろ。 もう体が消え始めてる。



「れいくんばっかり傷つけるなー!」



……あの阿保。

狐の肩を借りて進み、長い尾羽をぐんとひっぱると、ようやく こちらを見た。



「もう死んでる」



わかっていなかったのか。 ルフは何度も確認して、 それからずっしりと座った。



「れいくん、無事?」


「...ああ」


「今度は助けれた?」


「今度も、助かった」


「そっかぁ!」



ルフは昔と変わらない顔で笑う。

でも、もうそうもいえないんだろう。


体が痙攣を始めていた。



「れいくん、もう、壊すのは辛イよね」


「…」


「ボくは、 そろそろ、朽ちチャう。 いっぱい、戦ッタ、 から」


「ああ」


「次のルフのティナは、もう……ぼクじゃナイから、いられいと思う」


「ああ」



ルフは、あの日死んだ。 ここにいるのはそのティナで、 ティナが堕ちた奴だ。


あいつ自身ではないし、あいつの記憶があること自体が奇跡だ。二度は起きない。 これが最後だろう。



「ぼく、行くネ。 最後に、 空飛びタい」



瞬時に建物の屋根を破壊する。


白んだ空はすこしだけルフの姿を照らし、 傷だらけの白い鳥は不思議と輝いて見えた。


ルフは子供みたいに羽を仰ぐ。

飛ぶことさえできなかった臆病な雛鳥を思い出させた。



「ルフ」


「ん?」


「あの日、あのままじゃ俺は死んでた。 お前は命をかけて俺を助けた」


「…....うん」


「借りは返す」



魔力を開放する。


全身を貫くような“限界” を感じるが、 知ったことか。 こいつは命をかけて俺を救ったのに、俺が何もしないわけには いかない。 俺の流儀に反する。



「飛べ。 振り返るな。 俺に任せろ」



体から悲鳴が聞こえる。 欠損した腕から血が止まらない。

全ての力を形成した剣に込める。


ルフは変わらず、戸惑う。

戸惑っても、 迷っても、いつかは決断する。



「れーくん。 ありがトウ」



ルフはその一言を最後に飛び立った。

太陽を受けてまぶしく輝く。


俺はその背を追うために骨組みのような翼を広げる。 体が砕けそうだ。



「ゼロさん!」



声と背中へ衝撃。 同時に力がぐっと湧いた。

息を切らしたあのバカは、汗をべったりと額につけて満足そう に笑っている。



「ルフ!ゼロさんのこと!ありがとう!!」



そしてよく通る鈴の音で叫んだ。 天を翔けるルフも甲高い声で鳴く。


出力も十分。 後のことは後で考える。 今は、こいつを破壊することだけだ。



「ありがとな、ルフ」



空羽ばたくルフに向かって、憤怒(サタン)を放つ。 全力で放ったそれは、黒い一筋の闇を残して消えた。

ルフの姿とともに。




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