07
「鳥さん 鳥さん!!」
ナンダろ。 きれいな声ダ。
「鳥さん!聞いて!起きて!」
上からだ。 頭をもちあげた。
何も見エない。
見えないけど、きれいナ声だ。
「ボくは、 ルフだよ」
声を返すと、霧からまた声がした。
「ルフ!お願い、ゼロさんを助けて!」
ぜろ?
ああ、れーくんのことだ。 れーくんは、そう呼ばれるの嫌いだって言ってタ。 書いてアルだけだからって。
自分の物二名前は書くものだから、これが名前なラ、俺はゼロ の物になるって。 そんなことないッテ。 そう言って…..。
「でも、 ボく、違うんだ。もうルフじゃないよ。 れいくんの知 ってるルフじゃないよ」
ぼクは死んだから。 ティナになっちゃって。 羽毛で埋もれてるけど人間から生まれた何かダ。
ぼくは、もう、違ウ・・・。
「細かいことは気にしない!!!」
え、ええ〜〜〜……。
「今の鳥さんがどう思うかだよ! 自分がどういう存在なのかは後 回しにして、目の前のことを見て! わたしのお願いを聞いて!」
無茶苦茶な声ダ。
気にするなって言うほど簡単なことじゃない。 自分が自分じゃなくて、いっぱい居て、恨む気持ちがいっぱい いっぱいで…。
そういえば不思議だナ。 声ってことは人間ナのに、ぼクは この声には恨ミが湧かない。
「ルフ!!!」
指さされた先を見るみたいに、 自然と闘いの方を見タ。
アラクネと、れいくん。
腕もなくて、目も片っぽで。 血だらけで、 悪魔の姿のれいくんだ。
昔みたいに。 なりたくない姿で怪我ばっかりするれいくんだ。
次の声が届く前に翼を広げる。 高く飛び急降下。 アラクネの胴を捕えた。
「ぐぎいいぎいいいい!??」
「ボくの友達をいじめるな!!!」
アラクネの糸がぐるんぐるんと巻き付く。
翼を強く羽ばたいて振り払う。 爪を握りこんで、体重を乗せて潰していく。
ルフという種族は巨鳥だ。
人間の船を持ち上げるほどの大きな鳥だ。 ぼクは雛だけど、蜘蛛を潰すことくらいできる!
「おのれ!ルフ! 血迷ったか!我はアラクネ! 人の敵!おまえもそうだろう!!」
「ぼクはれいくんの友達だもん!!!」
「なにを...…..」
「友達だもん!!!」
人は嫌いだ。 いっぱい死んだ。
仲間も家族も滅ぼされた。 痛みが残ってる。
辛い辛い気持ちが晴れたりはしない。
でも、れいくんは友達だ。 ぼくの友達だ。 今のぼクはそう思うんだ!
「それにぼク! 蜘蛛は嫌いだ! 仲良しはむり!!」
「何を勝手な・・・! 我がお前も喰ってくれる!!」
毒がささり、糸がどんどん出てくる。
足の爪は深々と突き刺さって、 さっきから気色悪い血が止まってない。
それでもまだ抵抗するなら、 ぼクも頑張っちゃうぞ!
アラクネをつかんだまま上昇し、 地面にたたきつける。 何度も 何度も。 勢いをつけて壁に放り投げ、そこに体当たりする。 嘴でつついて、ダンダンと踏みつぶして、まだ握って押しつぶ す。
糸が巻きついてる。 身動きが取れなくなってきた。
噛みつかれた。 痛い痛い痛い! もう許さないぞ!
無我夢中で暴れていると、ぐんと尾羽を引っ張られた。 そこには小さくなったれいくんがいる。
「もう死んでる」
れいくんはそう言った。