06
こういう時。
あの鈴みたいな音はよく耳に響く。
「息とめて一!!」
我に返った気がした。
赤い景色の中、 言葉の意味で何が起きているかを悟った。 アラクネの胴体に剣を突き刺し、そのまま離れる。
身動きのとれない狐のもとへ行こうとしたが、 視界が半分ない。
体が軽いと思ったら片腕までなかった。
……まぁ、今はいい。 軋む翼を打ち鳴らし、狐の体にコートをぶん投げて置いかぶさった。
「ぜ・・・」
「喋んな。 息止めろ」
いつもつけているマスクを押し当て、薄目をあけて青い景色を 確認する。
・・・・・・まずい状況だってことはわかったがどうしようか。 この粉、全部破壊できるか?そんな細かい作業できるかよ。 今 の俺が。
息を止め続けるにも限界があるんだが・・・。
「悪魔がひれ伏して居る! ひれ伏して居る!」
耳障りな声。 糸で剣を抜いたか、 アラクネの声だ。 同時に血の滴る音も聞こえる。
「っ!!」
背中に衝撃が走った。 あの野郎、 刺すとか毒とかにしろよ。 息 を止めてるってのがわかってるのか。
「ひれ伏せぇ!!!」
次の衝撃。 覚悟しとけば呼吸にさほど乱れはない。 それより、狐、そんな目すんな。 俺は心を読めるって知ってるだろうが。 そんな顔するくらいなら目閉じてろ。
「ひれ伏せ! ひれ伏せ! 永久に!!! 悪魔が! 死ねぇ!!」
狐の顔をコートで隠し、衝撃に耐える。
・・・・・・・・・・ 埒が明かねぇな。
ティナ堕ちにカリタの影響があるのか、 さっきより威力が強い。
このままじゃ呼吸云々どころか死ぬ。
拳を一度鳴らす。 剣はない。 憤怒が使えないとなると、単純に殺すしかない。利がないけど仕方ない。
行こうと動いた瞬間、狐が胸倉をつかんできた。 狐の金色の目は涙を限界まで溜まっていた。 震えながら怒っているらしい。
まったく。しょうがねぇ奴だな。 お前の売りは乱れないってことだろうが。
「・・・・・・ クスリなんかに怯えんな。 俺はお前の姉のようにはならねぇよ」
見開いた眼を突き飛ばし、闇を集めた腕でアラクネを貫いた。