05
ティナが堕ちた。
「わーあ。 さすがのあいも、はじめて見たなぁ」
平然と言うカロルも頬には汗が見えた。
ティナ持ちにとって、堕ちるときというのは死ぬときで、いつかは成る姿。
どうしても、ああなるんだ、と思うだろう。
アラクネという蜘蛛だから、宿主を食らうという堕ち方だった のかもしれない。 皆が皆そうじゃないだろう。
ただ、自分が食いつぶされる、呑み込まれる。 そういう姿だ。
喰われた人間の体から生まれるように、黒い巨大な蜘蛛が現れる。
そしてその背中にはさっきの女性が生えてきた。
色も、表情も、人のものではないけれど。
「あらくね、ころす。 ひとをほろぼす。 あらくねをほろぼした ひとをぼろぼす」
声もさっきの女の人のもの。 一番最初に会ったアラクネのティナ堕ちとは全く違う。
そこにゼロさんが特攻した。
まだ腕は潰れて、 翼はへし折れたままなのに。
「ちょー!? ディアブロ! それは危ないよぉ。 相手ティナ堕ちなん だから、舐めたことすると死ぬよー」
「カロルさん! 助けてあげてよ!」
「んーん。 無理だねぇ。 わかってないみたいだけど、ティナ 堕ちって戦うもんじゃないんだよぉ。 いつか朽ちるんだから、 ほっとけばいいのさぁ。 ハンターでも死ぬのを速めるとか、近隣に被害がでないようにするだけでねぇ。 本来、 誰も戦えないん だよー」
「な・・・」
「体のつくりが違うからねぇ。 文字通り歯が立たないのさぁ」
でもゼロさんは戦う。 それが率先してのものか、そうじゃないかはわからないけど。
「あいが思うにはねぇ」
カロルさんは体にばしゃばしゃと水をかけながらつぶやく。
「悪魔だからだと思うよぉ。 悪魔は人間を殺したいんじゃない からねぇ。 対象はあい達、ティナにも向くしい、 人間より強い分はやく殺さないといけないでしょー?」
「でも・・・ゼロさんがティナ堕ちと戦える理由にはならないよ! 」
「それはぁ・・・んー。 傷つくかもしれないけどねぇ。 ゼロというティナ持ちは、もう堕ちかけ・・というか、堕ちてるからだよぉ。
それこそ、 ティナを得た瞬間にねぇ」
「っっ!?」
「たまたま魔力が多いから堕ちてないだけで、思想も行動も、 ティナ堕ちとそう変わらないでしょ? ディアブロは。
言ってしまえば、あいら以上に覇力があるんだよぉ。 我が強すぎて、ティナの意思も自分のものだと思ってるだけだ と思うんだぁ..。それか、もともとの魔力が有りすぎるからかねぇ。
だって、あれだけ壊して殺してを繰り返してねぇ。 ティナの意志に沿っといてねぇ。堕ちてない方が異常なんだからぁ。
体を 支配されるっていう最後の一線を越えてないだけで・・・・・ああ! あの吸血鬼のティナ持ちと同じかんじだねぇ!そういう意味ではー。
だからあいは、親しみをこめて、 ディアブロって呼んでるんだよぉ」
ゼロさんは、ティナ持ちだけど、もう堕ちてるのと同じだから。だからティナ堕ちと戦える。 カロルはそう言ってるんだ。
これは、ティナ堕ち同士の戦いだと。
「さて、あいはあいの仕事をするよー。 あの戦場には興味ない からねぇ」
「…うん。 手伝ってくれてありがとう」
「いいよー。 お金もらったしあいもティナ持ちだからねぇ。 ここの観客は死んでくれて構わないしー」
じゃあねぇとカロルは姿を消した。 擬態して風景になじんで いるんだろうけど、 わたしの目には何も見えない。
「~~~っ!よし!次だ、次!」
ここに捕まってた闘士たちの力を借りて、 ゼロさんたちの心に 影響する観客たちは制圧できた。
どうせ入口はこの騒動のせいで崩れて閉じてるから、誰かが逃げ出すこともない。
この闘士たちにはルナティクスに来てもらうことになってるから、情報の流出もたぶんない。
次にわたしが何をするかだ。 何もできないとあの観客たちのように、 ゼロさんの戦いを眺めてるわけにはいかない。
「みなさん! ここは宜しくお願いします!決して外にはでないように!!」
考えろ考えろ考える! あのままじゃゼロさんは殺されてしまう。
「あ、ちょ! イーリスさん! 来てください!」
「なに!?」
闘士のひとりの手招きに振りかえる。
「なんか、会場が ······ 白んでます」
指さされた会場は、霧でも張ったかのように真っ白になってい た。 小麦粉でもぶちまけたみたいに。 いや、でも少し青っぽいか。
「イーリスさん! やべーっす! これまじでやべーっす!!!」
「なにが!!!」
「これ......」
闘士の言葉に背筋が冷えた。
あの中にはリオとゼロさんの二人。 わたしは声を荒げた。