03
悲鳴と、人の吠える声と、 狂気の笑い声。
どうしよう。
吐き気がするどころか涙が出る。
メニューの意味はわかったけど、直接目にするのでは訳が違う。
どうして、女の人を切り刻んでるんだろう。 それを見て何が楽しいんだろう。
チップだと、もう死ぬしかないであろう人にお金を投げつけて。
ほんとに、なにが......。
コンと足を蹴られる。 冷ややかな目をしたリオだ。
そう。 わたしたちは見なければならない。
観客で来たのだから、見ないと不自然だ。 今、耳のいいリオと目のいいセロさんが辺りを探ってる。
わたしは怪しまれないように、ほんとなら、きゃっきゃと喜ばないといけないのだ。 ・・・・・・さすがに無理だけど。
「余興は終わりだな」
人一人が惨殺されるところが余興なのだから、ほんと怖い。
「次までに時間があるから、俺は少し歩いてくる」
「あたしは待ってるよ」
二人はうなずく。 うん。なにかわかったのだろう。
「じゃあな」
マスクで顔を隠しているとはいえ、 ゼロさんは正体を隠す気あるんだろうか。
怒気というか殺気というか。 なんか漏れ出てますよ。
「・・・ あたしでも、ああいうの見たら荒れるんだよ。 あいつはもっとでしょ」
リオは小声で話す。
そうか。 だから離れたのか。 赤い眼だったりだったりになると、ゼロさんだとバレてしまうから。
リオも今は尻尾を隠しているし、名前も伏せている。
誰がいるかもわからないところだから、ティナ持ちがいるなんて知れたら、どう なるかわからない。 そのままあの地獄へ突っ込まれることさえ考えられる。
「こんにちは、お嬢さんたち。 見ない顔だねぇ」
きた。 絶対来ると思った。
ゼロさんの言った通りに。
「ええ。 初めて参加しましたので。 妹には少し辛かったようです」
「刺激が強いからね。 失礼ですが、 どういったご経緯で?」
「ティナに興味があります。 なかなかアレを見ることはできませんし、まして やアレに勝てる人間を見ることがないですから」
「それは残念ですね…。 血に興味がおありかと」
「血ですか」
リオは、狐の金色の目を輝かせた。少しだけティナの本性がそこから見える。
興奮と、狂乱の。
「ティナには興味があります。が、趣向は、 別ですので」
息をのんだ。
リオ。リオだめだよ。
性格上そういうことしないから、あれだけど。 リオは九尾の狐だから。 女で、人を惑わすことに、これほど長けたティナはいない。
そしてリオだから、リオの見た目だから、これは、まずい。
話しかけてきた人は一瞬で目を奪われてた。 骨抜きにされたというか、魂ごと引っこ抜かれたようだ。
それほど、なんというか、まずかった。 女のわたしですらまずいと思う。
「そりゃ幻術含めだからね」
「だとしても・・」
何故か個室にて、リオの足元に跪く男×3という構図が出来上がってしまった。 おそるべし九尾。
「貴方のためなら死ねます!」
「貴方のためなら殺せます!」
「貴方のためなら何でもします!」
壊れた男たちの出来上がりだ。 煽ったり恐怖で支配するゼロさんとはまた訳が違う。 こっちの方が見てて怖い。
「そう…..」
口調すらどこか変わる九尾はうっすらと笑う。
「それなら、あたしの、 興味と趣向。 どちらも満たしてくれる?」
こわ!!!




