09
歌に踊り。
おいしい食事に浴びるようにある飲み物。
今日はお祭りだ!
実質ルナティクスが復興したということで、街をあげての大騒ぎ。
今日は、大人も子供も商人も犯罪者も関係なく歌って踊って楽しんでる。
なにせ壊滅状態にあった狂人の街の復活だ。 ここにいる人で、それが嬉しくない人はいない。
とはいっても、まだ銀さんはあちらに残ったままだし、島だって壊されたままで動いてはない。 実際の復興は銀さんが帰ってきて、街が海を漂いだしたらだけど、そんなこと街の人には関係ない。というか、ここが動くとか誰も知らないし、想像もしていないだろう。
このお祭りは、わたしやゼロさんが企画したものじゃなく、 勝手に始まったものだ。
ルナティクスらしさが戻ってきた証だと思う。
「…..で。 ゼロさんはまたお出かけすると」
「ああ」
街の中心地エデンの屋根。 ゼロさんがぶっ壊したエデンも、立派に美しく建て替わったのだが、 雨に打たれるよりも早く、ダバダバと酒を注がれることになるとは誰も思わなかっただろう。
祝い酒ならしいけど。
ゼロさん、とりあえず。
飲みすぎです。 食べすぎです。
「カリタは処分しないとな。 それに、 未だにああいう場所があるって聞いたら壊すしか選択肢はない」
「……闘技場かぁ」
「闘技場というか、たぶん拷問場だろうがな」
ゼロさんはこれからそういう場所に戦いに行くのだそうだ。
試合を見るのではなく、血を見るための場所。
聞くだけで胸悪い。
戦うところを試合として観るのが楽しいはわかるけど、人が死ぬところを見るのが楽しいは……わたしも理解できない。
昔ゼロさんがそういう目に遭ったのも聞いてる。
何があったのか、 内容を知ってるなんてとても言えないけど、嫌で恨みがある場所というかなんというか… 消してしまいたい場所ではあるんだろう。 奴隷も、闘技場やコロシアムも。
「ゼロさん、わたしも手伝う」
「言うと思ったが却下」
「それも言うと思ったけど却下」
「あ?」
「それも言うと思ったけど却下」
頭鷲掴み、ミシミシ、ぎゃーーーー!
「お前はいい加減、もう一人の仲間とやらを探せ!」
「だってそこにいるかもしれないもん!」
「いたとしたら死んでるだろ」
「いたとしたら成りあがってるよ!」
だって、ウラガだもん。 強気で、 腕っぷしの強さが自慢で、戦闘狂で、 ウラガだもん。
「可能性はある!」
「根拠がねぇ」
「死んだって言われてる人を探すんだもん。 根拠なんて無いようなもんだよ」
ミシミシは止まった。 その手はゆっくりと祝い酒の杯にのびて、 エデンも飲めよと言わんばかりにバ シャバシャと屋根を濡らしていく。
「......... まぁ、一理ある」
勝った!
「身元不明で身寄りもなければ字も読めない戦闘狂なら、奴隷として売られて闘技場行になってもおかしくはない」
「え」
「年単位そういう場所で生きていけるとは思えないが……まぁ可能性も無いわけじゃないか」
奴隷。 奴隷、か。
ウラガが奴隷かもしれない、か。
「……… 雇い主がかわいそう」
「お前、仲間の心配しろよ」
だって、誰かに従うとも思えないし、誰かとうまくやれるようにも思えない。
だってウラガだから。
一瞬でも隙があったらボッコボコにしてそう。 そんな気の抜けない人生を送る羽目になるなんて、可哀そうな雇い主…。
「と、とにかく! ウラガならそこに居続けて成りあがってる か、さっさと離れてるだろうけど、何か手掛かりがあるかもしれない!」
「……」
「それにご飯作るし煙草もお酒もあるよ!」
「しょうがねぇな」
欲とは偉大である。
あのゼロさんを動かすほどの絶大な威力だ。
「ああ、ゼロ。 ここにいたんだ。 あたしもついていくよ」
「…..…は?」
「こっちの医療は父さんたちでどうとでもなるし、裏の医師 としては仕事がないからね。 それに銀に頼まれたから」
「あ?なにを?」
「そこでカリタの上位版みたいなのが作られてる可能性が高 い。 そこのティナ持ち用のね。 ゼロだと全部破壊尽くすだろうから、少しだけでも持って帰れって」
「········· なんでだよ」
「父さんの研究の糧になる」
リオのお父さんは、医者だけど研究者としての実績が高い。 もともとリオのことで連合と繋がりを持ったのも、連合の一 員になれたのも、医師の腕ではなく研究技術方面でのことだ。
「父さんの研究対象は、 麻薬全般だからね」
麻薬全般とはいっても、それを生み出す方ではなく治療薬の 方だ。 服用して依存してしまった人たちのための治療薬。 ただ耐えるしかないと言われていた依存性を軽減させる薬を 作ったのが、リオのお父さんなのだ。
ルナティクスでは薬の出回りも多いけど、この治療薬の販売 は連合が担っていて、この街でしか手に入らない。 わたしはあまり麻薬に詳しくはないけど、とてもとてもすご いことならしい。
「父さんは人間用の麻薬ができたなら、 カリタもできるって 考えてるからね」
「…........ 勝手にしろ」
ゼロさんはため息をつきながら杯を下へ放った。 パリンと言う音と叫び声、笑い声が響く。
「ただ、戦闘には参加すんな。 とくに狐」
「あたし?」
「堕ちたティナには引っ張られやすい。 頭狂いそうになるぞ 」
「それはゼロもでしょ?」
「俺は慣れた」
慣れたか・・・。
ううむ。 良いような悪いような。
「あとお前らは勝手に情報集めるなり人探すなり好きにしろ。
俺はそれを待ってやるつもりも協力もするつもりはない。 やれるときにはやる。 それでいいな」
「うん。 ウラガの手がかりが見つかるまで待ってもらうつも りなんてないよ」
「父さんたちには悪いけど、 あたしもカリタなんてゼロに粉砕してもらう方がいいと思ってるから。 持って帰れなかった らそれでいいよ」
ルナティクスの復興が終わって次のやることができた。 ティナ持ちを狂わすカリタ撲滅、そしてウラガ関連の情報集め。
よーし! 頑張るぞ!!